2.それぞれの『血』
「早速旅立つか。血は争えんの」
かつてより貫禄がついて王らしさが出てきたオジロンがリュカに声をかけた。まだ出発する時間にはなっていなかったが、オジロンの方が早く部屋に来 て声をかけていた。
「はい、叔父上にはもう暫くお世話になります。ビアンカ姉さまを放っておくわけにも行きませんし」
もっともであると言うことを言われてオジロンは困った顔をしたが、どちらにしても、アスラが成人するまではオジロンが王位に就いている事に変わり はなかった。
「ここまで来たのだ、リュカが居なくともグランバニアは守って見せよう。みなの家をな」
オジロンはそう言ってリュカの方に歩み寄った。
「ビアンカ殿を見つけ出し、マーサ殿の手掛かりも見つけてくるのだぞ」
リュカの肩に手を置いてオジロンはリュカに言う。リュカはその言葉に力強く頷いて答えた。
「そういえば、ビアンカ殿の事を探している最中のことだが・・・偶然にもマーサ殿の故郷を見つけたぞ。兄上が何かをしたようで、グランバニアの名に 敏感ではあったが、マーサの子のリュカならば話も聞けよう」
オジロンはそう言ってリュカにマーサの故郷、エルヘブンの場所を教える。
礼をオジロンに言って早速外に出ようとしたとき、リュカはサンチョに呼び止められる。「サンチョさん、どうかしましたか?」
「今回は私も同行させていただきます。もうひたすら心配して帰りを待つだけは勘弁してください」
言葉はどこかやんわりした様子だったが、サンチョの目は真剣そのものだった。それを見たリュカのほうも、どんな気持ちでサンチョがこう言っている のか分かり、連れて行かないわけにも行かなかった。
「わかりました、アスラとレシフェから話は聞いています、旅慣れしていると。それを見せていただきますね」
リュカは茶化すような笑みを浮かべてサンチョに言った。サンチョもまた照れ半分の複雑な笑顔を作って見せた。
「さてと、まずはエルヘブンだけど…」
行き先を呟いたリュカの手をレシフェが引っ張る。
「だったら外に出れば、すぐに行けます」
「えっ!?すぐ・・・?」
尚も手を引くレシフェに少し制止させようとしたが旅に一緒に出られるのが嬉しいのかレシフェは舞い上がり興奮気味にリュカの手を引いていた。オジ ロンに笑みを浮かべながらリュカはお辞儀をして、謁見の間を出て行く。
外に出ると、リュカたちが準備していたことを知っていたように、馬車に仲間たちが乗って待機していた。「リュカ様、無事に戻られて安心しました」
代表して御者台に座るピエールが声をかける。他のみんなも幌の中からそれぞれがリュカを見据える。
「みんな、心配かけて悪かったね。あの時、誰一人欠けることなく無事だったのは良かった。また、よろしく頼むね」
そう言ったリュカにそれぞれが思い思いの方法で返事をする。
そしてレシフェは皆を自分の周りに集めると、呪文を詠唱する。「ルーラ!!」
次に皆が目を開けた場所は、目前に大きな岩盤があり階段が作られている場所だった。
「ここがエルヘブン、ひいおばあさまの居る場所です」
丁寧にレシフェがリュカに説明する。
「レシフェはルーラまで使えるのね。…エルヘブンへはサンチョさんとアスラと?」
古代呪文と呼ばれているルーラは通常の呪文の鍛錬だけで覚えることは不可能だった。文書としての文献が何も残っていなかったからだった。ただ一つ だけ例外があった。それは使うことの出来るものが口伝で教えれば習得は可能だった。そしてこのパーティにはリュカ以外にメッキーがルーラを習得してい た。
「ルーラを初めとした補助系はメッキーさんに、攻撃系はマーリンさんにじっくり教わりました。エルヘブンは三人で姫父様のことを調べている最中に偶 然見つかったんです」
褒められたことに気を良くしたレシフェが照れたような恥ずかしそうな笑顔を見せてリュカに答えた。
「アスラ殿もレシフェ殿も天性のものをお持ちです。剣術についてはアスラ殿、呪文についてはレシフェ殿。教えた先からすぐに実践してその身で覚え る。我らやティラル殿の教えることの全てを吸収していきました」
メッキーがそう言って双子を褒める。それを聞いてアスラもレシフェも照れ笑いをしていた。
「リュカ様、それがしどもは外でお待ちしております」
エルヘブンの入り口に差し掛かるとき、ピエールから声がかかる。
「エルヘブンの地はなにか聖なるものの守護を受けていて、いまのそれがしたちでもその空間には近づけません。いつものように野営をしています」
リュカはもう馬車だけならば問題ないと感じて、特に外での野営をさせる気はなかった。それを見透かしたようにピエールはエルヘブンに入れない理由 を説明した。
リュカとアスラ、レシフェ、サンチョの四人がエルヘブンに入っていく。そのエルヘブンはアスラを先頭にしてリュカは案内される側で歩いていた。そし て、マーサの母のいる一室に辿り着く。「ひいおばあさま、お久しぶりです」
気付くと先頭が入れ替わってレシフェが一番前に居た。室内に居た一人の老女にレシフェが丁寧に挨拶をする。
「おお…レシフェ、アスラ、よく来ました。そしてサンチョ殿も。それと…リュカ、ですね。私があなたの祖母でマーサの母、グランディアです」
エルヘブンでも長老の域に達すると言うグランディアはそう自己紹介してリュカを歓迎してくれた。
エルヘブンには本来、海上にある洞窟を通り過ぎて来なければならず、また聖地であるエルヘブンに容易に近づけないようにと結界なども施してあるた め、そう簡単にこの洞窟を通り過ぎてくることは出来ないはずだった。だがごくまれにその結界を通り過ぎて来る者が居ると言うことだった。そのうちの一 人がパパスであり、サンチョ、アスラ、レシフェたちでもあった。そしてマーサは突然現れたパパスと恋に落ちたのだと言う。
エルヘブンの民は、元は「ゴッドサイド」の住人だった。そのゴッドサイドで天と地を結ぶ、ひいては違う空間を繋ぎ行き来出来る能力を持ったものたち が後のエルヘブンの基礎を作ったと言われている。だが、ゴッドサイドが滅び、エルヘブンでも血が薄くなるにつれて空間を繋ぐ能力は薄れて行った。現エ ルヘブンには魔界と通ずる門があると言うが、その門ははるか昔、エルヘブンが出来た頃の「巫女」が見つけ出していた。しかしその門を開いたり、封印す ることはそのときの巫女にも出来ず、発見しながらただ放置するだけになっていた。
それから数百年、薄まりながらも能力を継いだ巫女の家系は大切に守られてきた。その血筋に生まれた特別な能力を持った子こそがマーサだった。マーサ は過去にエルヘブン…ゴッドサイドの民が持っていた能力を有していて、魔界との門も自らの手で封印することに成功した。
その能力を有したマーサがパパスと共に旅に出た。行ってしまうことにエルヘブンの長老たちは反対していたが、マーサ自身が戻る気はないと、そして世 間を知らない箱入りに育っていたことを恥ずかしく感じて、反対を押し切って駆け落ち同然で旅に出たのだと言う。
門の封印自体が術者が居ないことで弱まることは無い。その上、封印を開けるための鍵をマーサは封印時に生み出していた。水と炎と、自らの命を削り紋 章を作り出す。その紋章が揃ったときに門は開かれると言う。
しかしマーサは魔族に魔界へ攫われ、魔界から人間界に向けて門を開けるようにさせられているらしいと言う。門を開くための手掛かりは何もない。マー サの能力は薬にも毒にもなる、諸刃の剣だった。「その『門』は、大きく縦に天界、地上、魔界との間に存在します。そして地上に限っては横に人間、魔物、妖精の世界の間に門が存在しています。縦は 行き難く、横は行き易い。これらは普段見ることのない門のおかげで干渉せずにいます。しかし、マーサが魔界に攫われてしまったことでこのルールが崩れ ようとしています」
「…その前に、母様を攫った者を倒し、救い出せば…」
グランディアの言葉にリュカが少し苦し紛れに言うが、グランディアはそれに首を振った。
「魔界に行くと言うことは、門を開けると言うこと。…それしか方法はないのです」
グランディアも少し苦しい選択になっていることを示唆するようにリュカたちに話す。
「・・・その門、開けるためにはどうしたら良いのですか?」
わずかの沈黙が過ぎたが、それをすぐに打ち破ったのはリュカだった。グランディアをじっと見つめてそのことの答えを求める。グランディアは初め リュカを止めようとして息を吸った。だが、目が合ったときリュカの瞳は静かにだが怒りを宿していた。そのことが何を意味しているかは、おそらくグラン ディア以外の誰が見ても良くわかるものだった。
「水と炎、命の紋章を集めなさい。ただし今この三つがどうなっているかはわかりません。その前にまずは天空の城にいる竜の神を訪ねなさい。…しか し、その竜の神も所在不明と聞きます。とにかく竜の神から助言を得なさい。そして三つの紋章が集まったらまた、ここにおいでなさい」
グランディアは少し息苦しそうに話をする。それがどういうことなのかリュカにも充分理解は出来ていた。だがそれでも訊ねねば先へは進めない。リュ カは心を鬼にしてグランディアに質問を続けた。
「その天空の城へはどうやって・・・?」
「エルヘブンの南西に一つ大陸があります。人々は『竜の顎』とも『天を裂く刃』とも呼ぶ前人未到の山脈のある場所です。その山脈の麓に天空への塔が あると言います。そこへは船では近づけぬ場所とも言われています」
言いながらグランディアは自分の後ろにある宝箱を開け、中身を取り出した。
「これはエルヘブンに古くから伝わる魔法の絨毯です。みなを…馬車をも乗せて空中を移動することが出来ます。私からはこの程度の事しか出来ません が・・・後はここで、リュカたちの旅の無事を祈っています」
手渡される魔法の絨毯を受け取り、リュカはグランディアに頭を下げた。アスラとレシフェ、サンチョもリュカに習い頭を下げる。そんな孫とひ孫たち の様子を見ながらグランディアは切なそうな表情を浮かべた。
魔法の絨毯を手に入れたリュカたちはエルヘブンから一旦テルパドールへとルーラで飛ぶ。テルパドールで天空の兜を回収するためだった。
テルパドールでは女王アイシスがリュカの訪問を待っていた。グランバニアの前王パパスの娘とわかった時点でアイシス宛に親書を送っていた。
相変わらず庭園はすばらしく砂漠の中の城とは到底思えなかった。それはアスラやレシフェにはただ驚くばかりで思わず立ち止まってしまうほどのもの だった。「ご無沙汰しています、アイシス様」
リュカが丁寧に頭を下げると、アイシスも椅子から立ち上がって挨拶をしてくれた。その直後、アイシスはアスラと目が合いハッと息を飲む。リュカは アスラのことを話す順番が入れ替わってしまったと感じていた。アイシスは何も言わないうちにアスラが天空の勇者であることを見抜いたようだった。
「いまは挨拶より、とにかくついて来てください」
少し取り乱したようにアイシスはリュカたちを天空の兜のおかれている場所まで案内してくれた。
アスラが天空の兜を前にする。ビアンカが何とかもちあげ、リュカであってもわずかに動かす程度だった兜はアスラの手の中に静かに入る。それをアスラ は頭に載せる。初めは大人のサイズのそれだったが、徐々にアスラの頭に合うように小さくなり、アスラの頭にきつくも緩くもないほどで変化が終わる。「ああ、ついに現れたのですね、天空の勇者様が・・・・・・」
アイシスはそう言って歓喜の瞳でアスラを見つめて、深々と頭を下げた。
兜をアスラに改めて渡したアイシスはリュカたちを庭園に連れ戻す。リュカは改めて親書に書いた内容を話し、自分がグランバニアの王子であること、呪 いで女体にされていること、攫われた母マーサを探していること、その母の手掛かりとして天空の勇者を探していることを話した。「なるほど、そう言うことだったのですか。天空の兜をリュカが動かすことが出来たのはその強い想いがあったからかもしれませんね。そして、ビアンカ さんが持つことが出来たのは・・・」
「ビアンカ姉さまが天空の勇者の末裔だったから、ですね」
アイシスはリュカの説明に納得した様子で頷きながら言った。リュカも続けてその真実をかみ締めるように言葉を続けた。
「それで、これからはどうされるのですか?」
「エルヘブンに居るわたしの祖母から、天空の城と竜の神を探せと。まずはその天空の城に上がる天空への塔を探します」
アイシスが一段落着いているのかと訊ねると、リュカは早速次の目的地を目指す旨を伝える。
「天空への塔でしたらテルパドールから北、セントベレス山の麓にあります。竜の顎や天を裂く刃とセントベレス山を呼んでいるようですね。セントベレ スの名を知らないものも多いようですから」
アイシスは言いながら、テルパドールの周辺地図を出し、今の場所とセントベレス山のある場所、天空への塔の位置を指し示し、場所を教えてくれた。
「ありがとうございます、アイシス様。ではこれから行ってみることにします」
リュカが丁寧にお礼を言うと、自分の方こそ勇者の力になれてよかったとアイシスは礼を言った。
「ちょっと寄り道してもいいかな?時間はそんなに取らないよ」
リュカはそう言ってアスラ、レシフェ、サンチョをつれて武器屋を訪ねる。だがその武器屋は品切れと言うわけではなさそうだったが店主の姿はなく、 店は誰もいない状態だった。
リュカは首をかしげながらあたりを見回すが、居住区画に行く道がなく、諦めて店を出ようとした。「えっ・・・!?リュカ!!」
店の入り口に人影が現れ、その人影は親しげにリュカを呼ぶ。その声にリュカも顔を見なくてもすぐに相手を誰か察して表情を明るくした。
「クラリスさん!!」
そこに居るのはテルパドールの実家を飛び出し、ポートセルミで踊り子をしていたクラリスだった。
「もう随分前の話だけど、伝言ありがとう。ようやく戻ってこられたんだ」
そのクラリスの後ろには、当時はまだ少女だったクラリスの妹の姿が今はアスラやレシフェよりも大きな姿であった。
それから少し、ポートセルミでのことやテルパドールに帰ってきてからのことを皆で話す。
クラリスはあのあと暫くは踊り子の仕事で忙しく戻れなかったものの、クラリスの妹から手紙をもらい、なるべく早く戻る準備をしていたのだと言う。今 回で二回目の帰省とのことだったが一回目は忙しすぎて話も出来なかったらしい。今回はじっくり時間をとって話をしていたのだと言う。
ポートセルミでクラリスは、踊り子の座を次代に譲り、今はホールの案内などをしているのだと言う。「あ、それと・・・」
そう言ってクラリスは店の隅に置いてある自分の旅行荷物を漁り何かの包みを取り出した。
「…クラリスさんには不釣合いな武器ですね?」
その包みをみたリュカがポツリと呟く。クラリスは笑顔を見せてリュカにその包みを渡した。
「え、なんでわたしに?」
「カボチ村のおじさんから、千五百ゴールドを随分前に受け取ってね。金で持ち歩くのも物騒だから、買取金額で千五百ゴールド分の物に変えておいたん だよ」
戸惑うリュカにクラリスは懐かしい名前を出す。カボチ村は以前、リンクスがイタズラをしていた村で、その「化け物」を仲間にしたことが、グルだと 勘違いされてしまったことがあった。そのときの成功報酬をリュカは受け取らずに居たのだった。
「誤解が解けたんでしょうか?」
びっくりした表情でリュカはその数本の剣を受け取った。
「少なくとも、千五百ゴールドを渡しに来た人は、『昔、旅人に悪いことをした。その時のお詫びを出来ればしたい』と言って、宿を訪ねてきたから、大 丈夫だとは思うんだけどね。暇があったら行ってみると良いよ」
クラリスはそう言ってリュカに笑顔を向けた。
そのあと、武器はすぐにクラリスの父親の店でゴールドに換金して、リュカたちは次の目的地へと出発した。
魔法の絨毯を使いテルパドールの北を目指す。セントベレス山のある大陸は大陸と言うには少し小さなもので周囲は浅瀬に囲まれていて船で上陸するこ とは出来なかった。魔法の絨毯は馬車も含めて全員を乗せて低空で疾走するが、ちょっとした丘程度ならすんなりと飛び越えていく。浅瀬も難なく通り過ぎ てリュカたちはその大陸に足を踏み入れる。大陸の中央あたりに天空への塔があるとアイシスからは聞いていた。山脈のある大陸だけあり、平地も少なく魔 法の絨毯で踏み入れられる場所はたいしてなかった。だが、暫く歩くだけで、遠くに天を突くほどの高さの塔を見つける。
半日ほど歩くと、ようやくその塔の足元が見えてくる。そしてその入り口と思しき場所には一人の姿がある。近づくにつれて、その姿は剣を二本背負って いる戦士の姿をしていることがわかった。それはここに居る誰もがわかるいでたちでもあった。「ティラルさん!」
お互いに姿が確認できたあたりでリュカは声をかけた。その人は案の定ティラルで、リュカの声に反応して近づいてきた。
「よかった、旅を再会していたんだね」
かつての姿で戻ってきたリュカを見てティラルは少しホッとした表情を見せた。石化が解かれたことは、シルフィスからの情報でティラルも知っていた が、実際にこうして話すのはリュカの石化前から実に八年以上も経っていた。
そんなリュカの後ろには、ティラルもよく知る三つの陰があり、それぞれが挨拶を交わしてくれた。「ご無沙汰しております、ティラル様」
「お久しぶりです、ティラルさん」
「久しぶりです、ティラルさん」
ティラルはその丁寧な挨拶にすこしどぎまぎしながら軽く礼をして答える。アスラとレシフェにとっては剣と呪文の師匠の一人であるティラルに自分た ちの最低限の礼儀で挨拶をしていた。
「天空への塔に挑みに来たんだと思うけど…ちょっと時間を貸してくれないか?」
そう言ってティラルは天空の塔の後ろにある湖のほうへと導く。リュカたちは皆、ティラルを良く知るメンバーだったため誰一人疑うことなくティラル に従う。湖の畔には船が一艘泊められていた。船で湖を音無く進み一輪の蓮の花の咲く場所で船を泊めた。そこは船に乗った場所よりも濃い霧に包まれてい て、視界はあまり利かないような状態だった。ティラルはそこで道具の中から一つの小さなホルンを取り出すと、静かな湖面を見つめて気持ちの良くなるよ うなメロディーを奏でた。すると、徐々にあたりの霧が晴れていき、ピンと張り詰めた空気を纏っていた。そして正面の湖面には大きな城の姿が映し出され ていた。
「ここは・・・?」
あたりの変化に驚きの表情の皆を見ながら、リュカは息を飲んで質問する。いつの間にかティラルのそばに姿を現していたシルフィスがリュカの近くま で寄ってきて説明してくれた。
「ここは精霊の城です。本来は海の底にあるものなんですけど、特別な空間を介して姿を現しているのです。ここは私たち精霊と妖精、そして導かれた者 しか入ることの出来ない空間です」
いつもの丁寧な言葉遣いでシルフィスはそこに居る皆に説明する。ティラルはその説明の中身が理解できたかは問わずに船を精霊の城の方へと進めてい く。
城の大きさはグランバニアを上回るほどの大きさではないかと思われた。城門は湖面に接していて、船から直接城の中に入ることが出来た。外見どおり、 中も随分広く区画も大きいため、馬車で入っても余裕がありすぎるほどの大きさだった。「ティラルさま、まずは・・・?」
ティラルの肩越しに飛んで行き、シルフィスはティラルの正面で訊ねる。少し緊張気味のティラルは辺りを見渡しながらシルフィスに答えた。
「ともかく話からだろう。色々と話さなくちゃならないことがある」
城の中を歩いているはずだったが、天井からは自然の陽の光が差し込んでくる。いくつか角を曲がり、行き着いた場所は一面が緑の芝生で覆われている 広場だった。小川まで流れ込み緑の香りでいっぱいだった。
「ちょっと話は長くなるだろうから、みんな馬車から出てくつろいで。大丈夫、魔物でも良心を持っていない魔物はここに入れやしない。ここに居ると言 うことは悪害のないものとおのずとわかるからね」
「それに、魔物を見て襲ってくるような野蛮な精霊・妖精族も居ないですから」
ティラルはそう言ってリュカに目配せする。リュカはそれを見て、ピエールたちに外に出るように指示をする。思い思いの場所に座り込んだ。
「…さて。何から話すのが一番スマートかな」
ポンと手を合わせて全員のほうを見る。ティラルも座り込み、その肩にはシルフィスが定位置と言わんばかりに座っていた。
「まずはご自分の素性から、なんじゃないでしょうか?」
シルフィスは皆に聞こえる声でティラルに提案する。その案を聞いてティラルも一回頷いた。
「そうだね。…あたしのフルネームは、ティラリークス・ルビーサナート。一応精霊の一人だけど…実は元々この世界の人間・精霊ではないんだ。別の一 世界で精霊になり損ねた」
笑いを呼んだのかまではわからないが、ティラルの真剣な表情に皆が表情を固くしてティラルの言葉に耳を傾けていた。
「その一世界では『精霊ルビス』と呼ばれていて、そっちの世界では創造の神でもあったんだ。こちらの世界に来たのは、シルフィスのご先祖があたした ちを呼んだからなんだ。呼ばれて世界を飛び越えたって存在」
話自体が別の次元の話で、唯一シルフィスだけが頷いていた。
「シルフィスのご先祖のところに来たのは実は、あたし一人じゃないんだ。連れが居てね、彼女の名がレシフェ」
ティラルの口が出てきた言葉に驚いたのはリュカだった。そんなリュカを横目に、アスラとレシフェは少しややこしい話に首をかしげていた。そしてサ ンチョがその話に食いついた。
「ティラル様、そのレシフェと言うのはやはり・・・・・・」
リュカとは違う驚きを含んでサンチョがティラルに質問する。サンチョの言葉に嬉しそうな顔をしてティラルは頷きながら答えた。
「うん、グランバニアの創成王こと、レシフェ・ドラグレイエム・グランバニアその人だよ」
グランバニアに残る歴史書などは、アスラ・レシフェと共に勉強をするとき全て読み返している。その中にはグランバニアが出来た成り行きなどが書か れた歴史書も存在していて、その創成王の名と、右腕として活躍していた人物の名前が出ていることをサンチョは知っていた。
「グランバニアの創成王?」
驚きが疑問になり声を出したのはリュカだった。無理もない、リュカはグランバニアに来て数ヶ月のうちに石になり、そのあとは動くことも出来ず時を 過ごしていたのだ。リュカが過去の歴史書を紐解く時間などはなかった。そんなリュカにアスラとレシフェが質問に答えた。
「創成王と言うくらいですから、グランバニアを作られた第一人者です。女王であったそうですよ」
「今のグランバニアの姿になったのはパパスおじいちゃんの時代なんだけど、それでも当初から街を城壁と外壁の二重作りで囲っていたんだって」
そう説明するレシフェとアスラの言葉にリュカは頷いて話を聞く。
「その女王は街人たちとも分け隔てなく誰とでも接して、街づくりには女王自ら参加していたとか」
「グランバニアはまず街が出来て、肝心のお城は最後に出来上がったんだって」
順にレシフェとアスラが話を進めていく。直接歴史書を見たことのないリュカだったが、子供たちの砕いた説明のおかげで随分理解できたような気がし ていた。
「…とにかく欲のない人でね、豪華な大きい城を街の誰もが作れと進言していたのに、自分たちが生活できるだけの城しか作らなかったんだよ。それで満 足するような人だったんだ、レシフェって人は」
レシフェたちの説明に続けてティラルも創成王の話をする。
内容を理解できたが、信憑性などについては皆無だったリュカは、サンチョの方を見て目で合図を送ってみる。サンチョもレシフェやアスラの説明に同意 するように頷いて言葉を続けた。「グランバニアの古い書物にアスラ様やレシフェ様の仰るような通り残っております。それと、その創成王の右腕として活躍されたのがティラル様ご自身 だと言う事です」
少しパニック気味だったサンチョも落ち着いて、リュカに説明する。自分の見た文献の中身であれば確実に伝わるため、その内容の部分を話して聞かせ た。
「…ティラルさんが創成王の右腕・・・?」
衝撃と驚きとでリュカが声を上げるが、それでも落ち着いたようにティラルが言葉を続ける。
「そんなに立派なものではないよ。ただ…あたしは不老不死の身体だから、弱ったレシフェやまだ幼かった子たちに手助けしていたと言うのが事実。…グ ランバニアとはその頃からずっと知り合いではいるつもりだよ」
随分昔のことを昨日のことのようにティラルは話して聞かせた。
「不老不死って・・・グランバニアが成ってからだってもう数百年は過ぎているのでは・・・」
簡単そうに話をしていたティラルの言葉にリュカが呆気に取られた様子で質問する。
「五百年弱位前か、グランバニアが出来たのは。だけどこの世界にはもう千数百年って単位で存在しているんだよ」
「…ティラルさまを呼んだと言う先祖は私から二代前、祖母に当たる方です。それでも私たちは長い時間を旅する一族なんですよ、人間に比べて。そのこ とからも、グランバニアの歴史とティラルさまが世界に居る長さはわかっていただけると思います。…そして、私たちは時には天空の竜の神に事の次第を伝 えたりもしています」
ティラルが言うと、それに続けてシルフィスも人間とは違う存在であることを改めて確認する。
「それで。創成王レシフェはその血を地上に『勇者とは違う血』として残したんだ。有事の際にはその血が目覚めるような細工か何かをしてね」
ティラルは遠き昔を思い出しながらリュカたちに話を続ける。
「…血、ですか?」
その言葉にリュカが反応する。自分にもこれまでのグランバニアの人々とは違う、使命の血が流れているとティラルはリュカに言う。どうやらアスラと レシフェが出来たことでその血の宿命は果たせたようであったが、それでも子にかかる運命は気になる。自分が出来ることならば助けてやりたいとも思って いた。
「そう、そもそも創成王レシフェもこちらの人間ではない。人間ですらなかったんだ。別世界では『竜の女王』と呼ばれ、竜族の頂点に君臨する者だった んだよ。前の世界でその命を全うして、一度命の灯火を落としたんだけど、あたしと共にこっちの世界に来るために人間に転生したんだよ」
創成王レシフェの正体が明らかになる。だが、存在自体がすでに域を超えていて驚くどころの話ではなかった。ましてこちらの世界で竜族といえ ば・・・。
「…では、創成王レシフェさまはマスタードラゴンと一緒!?」
伝説に語られる天上の神にして全能の神、マスタードラゴン。この世界を治め、有事には自らも参戦するほどの神だった。それがエルヘブンのグラン ディアからの話で実在することにリュカたちは驚いていた。そして創始王もまたドラゴンを名乗る存在だったと知らされる。
「いや、マスタードラゴンとはまた別の存在。だから別にこの世界の神になんてなるつもりはレシフェにはなかった。だけど…竜の女王として存在してい るときは、自分で動きたくても何も出来ないんだって良く言っていたからね。マスタードラゴンを自分と重ねて、手足のようになれる存在が居たら楽だろう と言っていたんだ」
自ら女王をかつて名乗っていただけの存在が謙虚にもマスタードラゴンの手足になるなど、普通は言えたものではないと誰もが思えた。だが創成王レシ フェはそれを自分から買って出た。そうすることでマスタードラゴンの手助けもし、同時に自分の血を残すこともしていたのだった。
「…その、創成王の使っていた剣と言うのが、今レシフェの持つ片刃の剣。正式には刀と呼ばれて、銘を『天叢雲剣−あめのむらくものつるぎ−』と呼ぶ そうだよ。…天空の剣にも匹敵するだけの力を備えている。…まだ今は、眠っているんだけどね」
言いながらティラルがレシフェの背負っている細身の剣を指差す。この世界では見ることの出来ない、反りを持った超細身の剣−刀−だった。
「リュカに継がれた創成王の血は、残し導く者。残すと言うのは文字通り子を残すと言う意味だったんだね。そしてその子レシフェには創成王自身の能力 が継がれた」
「…私が、創成王の生まれ変わり?」
説明するティラルの言葉にレシフェが呟く。突然そんな事を言われても自分にその自覚はなかった。ティラルと自分の手や身体を見て、レシフェは言っ た。だがそんな自分にふと疑問を持つ。
「でも、なんで創成王の言う『有事』が今、なんですか?数百年前の天空の勇者のときは・・・?」
レシフェはそう言ってティラルに質問する。有事に目が覚めるのであれば、一度魔王に掌握された時だって有事であったに違いない。
「あの時は大魔王を討つ勇者が早い段階で生まれていたし、『導かれし者たち』もそれぞれに大魔王が関わって旅をする者たちだった。今回のように、一 つ一つがバラバラではなかったし…あたしたちが影で追いかけているヤツの姿も無かったんでね。あたし一人が少しだけ手を貸した。そのときはまだレシ フェは生きていたし、馳せ参じるほどではなかったというのが正直なところだよ」
何の迷いもなくティラルは語る。自分の記憶にある現実の出来事だけに、部分的にしか話さないことでも的確な言葉で説明してきた。
「では、封印を解きましょうか、ティラルさま」
そこまで説明したとき、ティラルとシルフィスとは違う声がする。みんなの後ろから聞こえたその声の主は見たことのない姿で、今にも透けそうな薄い 布を幾重にも重ね纏っていた。
「彼女がシルフィスの母でファルス、だよ。創成王レシフェの教え子」
そんなティラルの言葉に皆が一斉に振り向く。シルフィスの話ではすでに、ファルス自体結構な年を重ねていることがわかる。だがそれでも創始王レシ フェには適わないと言うのだ。
「刀を抜きなさい、レシファールトス。そして、ファルスからその刀の能力−ちから−を受け取るのです」
凛と澄んだ声でだが、力強くティラルが言った。珍しく呼称ではなく本名を言う。その言葉を聞いてレシフェも緊張が走る。そのレシフェの肩にふわっ と軽く触れるのはファルスだった。
「何も怖がる必要はありません、レシフェ。アスラの天空の血が目覚めるのと一緒、レシフェの本当の血が目覚めるだけです、そして…きっとあなたは何 も変わらない」
ファルスが意味深な言葉を残す。少し疑問を持ってレシフェはその刀を抜き放つ。相変わらず綺麗な澄んだ翠色の刀身をしていて、透き通るようなつや やかさがある。レシフェはその刀を横に構えて、ファルスの前に差し出した。ファルスはその刀の刀身を人差し指で撫でるようにしていく。微かだったが何 かを唱えるような、歌を歌っているような声が聞こえた。そして、ファルスが撫でた刀身は、翠の色が濃くなり、その刀自体がオーラを纏ったような独特な 空気を醸し出していく。ちょうど天空の剣と同じような濃い翠色ながら、それまでよりも澄み渡ってちょっと触れるだけで切れてしまうと思わせるほどのも のだった。
「さ、レシフェ」
ファルスが切っ先まで撫で終わると優しく声を出す。レシフェはファルスの声に頷いて、その刀を力を込めて構えてみる。ブルブルっと全身が震える程 の衝撃が全身を駆け抜ける。同時に天叢雲剣はその手に吸い付いたようにしてしかし、持つ感触は以前よりずっと手になじみただでさえ軽かったものが今は 重さを感じなくなっていた。
「す・・・凄いです、ティラルさんの言う創成王の言葉の一言一句までがわかります」
興奮気味にレシフェが言う。そのレシフェは全身の毛が総毛立つぐらいに皮膚が敏感になっていた。そして顔は歓喜の表情を浮かべて自信にも満ちてい た。
「転生、とレシフェは言っていたけど…記憶はまったく同一のものを思い出しているようだね」
「と、思います。ただ、記憶自体はリアルですが、目線が第三者のもののようにも感じて、すこし混乱しています」
首をかしげながらティラルは言うと、レシフェは相変わらず刀から手を離さずに言った。記憶が流れ込んできているレシフェはなぜか、少しだけ幼く なったようにも見えた。
「…それで黒髪で長ければ、まったく創成王その者の姿なんだけどね」
笑いながらティラルが言った。それを聞いてレシフェは初めて動き出す。横に一閃するように刀を振ると、そこの空気は刀に切られたようにも見えた。
レシフェが刀を収めてファルスに向かう。ファルスも優しい笑顔で頷きティラルを見返す。「天空の勇者だけでも大丈夫だったかもしれませんが…創成王レシフェさまも色々考えていたようですね」
ファルスが言うと、ティラルとレシフェが二人して頷いた。
「…でも、これだけ重要な血が目覚めるきっかけにもなっているって…いったい何が起きているんですか?」
少し頼もしくも見えるレシフェを見つめてリュカが訊ねる。ティラルは少し首をひねったがすぐに話を始めた。
「リュカに封霊紋が刻まれ、マーサ殿が攫われたこと、それがパパス殿の全ての始まり。同時に呪われたリュカの全ての始まり。生まれ出でたアスラとレ シフェはそれぞれが生まれた瞬間から始まっている。裏に何かがあるかもしれない。だけど共通していることは、人間を弄ぶものが居るって事。パパス殿と リュカには切っても切れない存在。…あたしにとってもね」
少し険しい顔をしてティラルが呟く。一つ一つはバラバラに思われる出来事だったが、ティラルに言わせるとそれさえも一つだと言うことだった。そし て、その共通の敵のことを聞き、リュカは瞬間的に真剣な表情に切り替わる。
「・・・・・・ゲマ、ですね」
余り聞かない、低い声でリュカが言った。ティラルもそれに頷いてみせる。
「けど、ゲマだけじゃない。実際『不穏』が動き出している。おそらくと言う正体はわかっているつもりだが、いまいち確証がない。…それとその不穏の 力は凄まじい。だからこっちも万全の体制を整えないと」
「…その不穏に母様は攫われた?」
ティラルの言葉を聞いて、リュカは今まで感じていた事実の一つを訂正した。それを聞きアスラとレシフェも驚いた顔をしてリュカをみる。当のティラ ルはその答えに辿り着いたリュカを見て不敵に笑った。
「そう、実行犯はゲマだけど、おそらくはその不穏が関わっている。そこを明らかにしないとね」
まだ確証が得られないと言うティラルはだが、少しだけ自分に自惚れているような形でそれを認めた。
「でも、わたしも違うと言うことは…」
不意にリュカがティラルに訊ねる。言葉の全てを聞かないほかの皆にはわからなかったようだが、ティラルとシルフィスが頷き、今度はシルフィスがそ の質問に答えた。
「リュカさまの血は、これまでのグランバニアの一族のものと、はっきり言って違っています。それ故に邪悪な者たちにはそれが危険と感じられたのだと 思います」
シルフィスの言葉にリュカは一人納得したように頷いた。
「…どっちがと言うわけではないけど、エルヘブンの古い血と、創成王の竜の血が同時に目覚めた」
「と言うことだね。多分、アスラとレシフェが無事だったのは、リュカの血が特殊すぎたから、かも知れない」
リュカが自分のことを説明するとティラルがそれに頷いた。
「ティラルさんはそのことを・・・?」
「最初からわかっていた。ターゲットとして狙っていたゲマが動き出したときに気付いていたならばすぐにでもリュカの元に駆けつけるべきだったんだけ ど・・・・・・」
リュカの疑問にティラルが答えた。だが、そのことでティラルは少し苦い思いをしていた。それを思い出して悔しそうな仕草を見せる。
「だけど、姫父様には感謝かもしれません。姫父様の血がグランバニアとエルヘブン、二つの能力に目覚めたおかげで、天空の勇者と竜の女王の血がまっ たく安全にもなったんですから。…二つの血を持つ姫父様を石化することで、ゲマとか言うヤツにとっても更にターゲットとして明確になった」
ティラルのやり場のない怒りを晴らしたのはレシフェだった。
リュカには特別な能力が目覚めたわけではなかったものの、他からもわかるように、マーサのエルヘブンの巫女の血と、パパスのグランバニアの竜の血が 目覚めていた。そのことでゲマはリュカをより強く危険視したのだろうとティラルたちは確信していた。そのおかげでゲマに呪いをかけられたリュカだった が、レシフェに言わせればそのことでリュカの陰が大きくなり、自分たちの血の目覚めについては気付かれなかったと言うのだ。「やっぱりあのレシフェの生まれ変わりだね。同じようなことを言う」
レシフェの言葉にハッとした様子でティラルがレシフェの顔を見直す。レシフェにしては特別意識した言葉ではなかったが、どうやらその言葉は創成王 の言葉と似ていると言うことだった。
「…でも、ゲマを張っていたからと言いますけど…アスラの天空の血はともかく、レシフェの竜の血はこうなることに気付いていたんですか?」
リュカが不意に質問をする。ティラルはこうした質問をするリュカに色々な意味で期待を持っていた。
「いや、気付いていなかったよ。実を言うと、初めはリュカが創成王の転生した姿だとあたしも思っていたんだ。アスラに至っても初めのうちは天空の勇 者だと言うことはまったく気付いていなかった」
ティラルは少し恥ずかしそうにみんなに言った。
「お嬢様が転生の姿と…?もしや、そのゲマとやらも・・・?」
ここまで沈黙を保っていたサンチョが言葉を発する。その質問にティラルは頷いてサンチョの質問を肯定した。
「リュカの血がエルヘブンとグランバニアの血で濃くなった分、ゲマも放っておけなかったんだと思う」
ティラルは言って、再び表情を曇らせた。その言葉を聞きサンチョは納得する。そしてリュカは疑問を持った。
「ゲマはレシフェを狙いはしないんでしょうか?」
恐る恐るといった表情で聞くリュカに、ティラルは手を振ってその疑問を否定してみせる。
「ゲマはリュカとビアンカさんを封印したことで、ヤツにとっての『危険な血』を引く子は生まれないと思っているはず。石化で全ての道を閉ざしたと 思ってるんだよ、たぶんね」
ここだけは出し抜くことが出来た。ティラルは自信を持ってリュカにその旨を伝えた。それを聞いてリュカも安心した顔をする。
「いずれにしても・・・この先はもう絶対に後手には回さない」
安心したリュカを見てティラルは力強く宣言する。それを聞いて、みんなは不思議な顔をしてティラルをみる。
「あたしとシルフィスもこの先、一緒に旅をさせてもらう」
ティラルの言葉を聞いてリュカが表情を明るくする。アスラとサンチョは少し複雑そうな顔をしてみせる。レシフェは当然だと言いたそうな顔で頷いて いた。
「ティラルさん、これからよろしくお願いします」
リュカが立ち上がって頭を下げる。他のメンバーも思い思いの形でティラルの参加を歓迎していた。