1.目醒め
「まさか・・・石化させられたのですか!?」
グランバニアに戻ったリュカの身体はグレーになり、指一つさえ動かすことは出来ない状態になっていた。それが石であることは、神ならぬサンチョにも 良くわかった。
サンチョの言葉に、石化状態のリュカを運んできたティラルは力なく頷いた。ティラルの後ろには無残にも石化させられている、驚きと絶望の顔に彩られ て動くことの出来ないリュカが居る。
ティラルはそんなリュカを背に、サンチョの顔も見れずに俯いているだけだった。
沈黙した時間が二人の間に流れる。
「…どうして後手ばかりの結果になってしまうんだろう。これじゃ守護神だと言って居たって笑われるだけじゃないか…!!」
いつの間にか涙を流し、涙声ながらにティラルが掠れた声を絞り出す。サンチョはそんなティラルの姿を見て、やりきれない表情を浮かべる。
「ティラル様、私が責めると言うことはありません。それに、こうしてお嬢様をお連れいただいたのです。それだけでも充分です。…行ったときには、すで に時遅かったのでしょう?」
当事者でなくても、駆けつけたときどんな状況にあったかは自ずと想像できた。
「申し訳ない、サンチョ殿…」
ティラルが小さな声で、年相応の女の子のように悔し泣きする姿に、手も差し伸べられないサンチョは少し悔しい表情をその顔に浮かべた。慰めの言葉を 考えたりもしたが、それがティラルにとって慰めになるとは限らない。そしてここでティラルを責めてしまっては、現状最善であることさえもを認めないこ とになる。サンチョはそんな事を考えながら、だが決してティラルを責めることはすまいと考えていた。
初めこそ、突然やってきて自分以上にパパスと親しく話すティラルの姿に腹を立てたサンチョだったが、よくよく話を聞くとサンチョの知らないところで パパスとリュカを助けていて、なによりグランバニアには大切な存在でもあったと言う事実があった。また、かつてパパスとリュカがラインハットに出向い たまま行方不明になった時、ティラルはサンチョの元を訪れていた。そして行方不明になった事実を話している。そのあと、サンタローズにラインハットの 兵隊が攻撃に来たときは、ティラルも先陣に立ってラインハット勢を押し留めることをしていたのだった。そのときから、パパスとリュカには自分より近い 『守護神』として存在していると言うことを知った。
傷心のままグランバニアに戻り、サンチョは古い文献などを探し読み返していた。そこで過去、グランバニアの創生の時にティラルと言う人物が関わって いることも確認していた。本当かどうかは分からないが、ここにいる守護神がそのティラルと同一人物だとかつてティラル本人は言った。
「ティラル様…悔しいのは分かります。ですが、お嬢様だけでもどうにか連れ戻すことが出来たのです。ビアンカちゃんは…すでに・・・」
サンチョの言葉にティラルは力なく一回頷く。そして元気の無い声でポツリポツリと話し始める。
「異変…ゲマと言う魔物が現れたこと自体はすぐに分かりました。が、駆けつけたときにはすでに石化したリュカだけで…ビアンカさんの姿は無く・・・」
溜息と涙声でティラルはやっと話をする。だが、ティラルがここにいること、リュカだけでも戻ってきている状態であるのに、希望を捨てるのはサンチョ にはばかばかしく感じられていた。
「ご安心ください、たとえグランバニアの民が責めようとも、私はティラル様を責めるなどしません。それに、お嬢様が戻れば必ず、ビアンカちゃんも探し 出すと言うはずです。まずはお嬢様のことを考えましょう」
サンチョは自分を元気付けるためにもティラルに優しい声でそう言った。ティラルは相変わらず肩を落としてうなだれていたが、サンチョの言葉を聞いて 意外そうな瞳を向けた。
「何故…あたしを責めないんですか?」
「あなたが守護神であるならば、お嬢様をこのままにすることも、もちろんお子様たちを放棄することも無いでしょう。その可能性がわかるから責めないの です。道を切り開くための事、私も参加いたします。今を悲観しないで、先を見据えましょう」
自分のことを信頼して、前向きな意見を言ってくれるサンチョにティラルは言い訳がましい言葉が頭をめぐる。リュカの守護神と言われてはいるが実際は ほぼ全てが後手になっている。その時点からリュカを助け出したりはしていたが、それでも最悪だけを回避している有様、自分が前向きになれないのは仕方 ないと考えていた。
そんな事を思っているときにサンチョから訊ねられる。
「ティラル様がもし、もう何もかも嫌だと仰るのでしたら手助けはここまでで結構です。…が、まだ続ける気があるのでしたら、希望は捨てないでいただき たい」
サンチョの言う言葉にはどこか自信がこもっていた。それを聞いて、ティラルはくよくよしている自分が少しだけ、馬鹿らしく感じもしていた。
「…それはもちろん、最後までリュカに手を貸すつもりです」
サンチョの言葉にティラルは投げやりになっていた自分の状態を少し情けなく感じた。今までどんなことがあっても、リュカならば大丈夫と信じてここま できていた。それをいまさら投げ出す気にはなれなかった。
「では、無理を一つお願いします」
「・・・無理?あたしに出来ることであれば何でもお受けします」
少しだけ、ティラルの中で気持ちが動いたのかティラルの顔が明るくなったのをサンチョは見た。そしてその様子を確認してからティラルに声をかけた。
「暫くグランバニアにご滞在いただきたい」
まっすぐにティラルを見つめるサンチョの目は真剣なものだった。そこから出てきた言葉はティラルにとっては少し意外なものだった。
「いま、グランバニアには王はいます。しかし戦などに対して優秀な兵はいません。他国から侵攻があった場合、何かと弱い状況です。そして幼い王子と王 女もいます。この二人を守るためにもグランバニアに滞在いただきたい」
サンチョの提案に少しティラルは驚いた顔をする。
「猫の手でも借りたい、と言うんですか?」
少し皮肉を込めた感じでティラルは呟いた。自分を過大評価していてくれることはこの言葉で充分に分かったが、それが逆にいまのティラルには手痛い言 葉にしか受け取れなかった。
「…ティラル様は期待されては困ると言いたいのでしょう。しかし二本の剣を携えた戦士はティラル様をおいて他にはいません。そして、グランバニア創成 期に右腕と呼ばれた『ティラル』様も二本の剣を携えていたとか。同一人物だとご自身も仰られている、それを期待せずにいられますか」
サンチョの言葉はティラルの考えをそのまま肯定するものだった。ティラルはその言葉を聞いて少し顔をしかめてみせる。
「…ですが、そのことをどうこうと言うつもりはまったくありません。私がお願いしたいことは至って簡単なことですから」
真剣な顔をして話をしていたサンチョが突然顔を明るくして、笑顔でティラルに語りかけた。
今のティラルはその表情や口ぶりからどんな心境であるかがすぐに分かる感じだった。サンチョの言葉にも少ししっくり来ないと行った感じで、不思議そ うな表情をみせていた。
「…何をすればいいんですか?」
「きっと、アスラ様もレシフェ様もいまのお嬢様の姿を見れば、元に戻すために旅をすると言い出すでしょう」
ティラルは半ば投げやりな感じで、サンチョに訊ねる。サンチョはそんな様子を見て少し心を痛く感じていた。困ったと言った様子でサンチョが一息つく と、その間にティラルが口を挟む。
「あたしに二人を止めろ、とでも?」
それは無理だ。そう言いたそうにティラルは言うが、そこまで分かったのかサンチョはティラルのその言葉に首を振ってみせる。
「アスラ様とレシフェ様のお二人に、ティラル様がいまお持ちのあらゆる技術や知識を教え込んでいただきたいのです。旅の知識から戦闘まで、とにかく全 て」
そう言ったサンチョの言葉にティラルは少し拍子抜けしていた。リュカが石化させられた代償を払わなければならない、とは思っていたが、アスラとレシ フェの教育係を指名されるとは思ってもみなかった。ティラルは少し間抜けな顔をして「えっ!?」と声を出す。そんな様子にサンチョが笑って見せた。
「お願いできますか?」
サンチョが言うと、ティラルも笑みをこぼし、「降参」と言った様子を見せてサンチョに頷いて見せた。
「…二人の子、見せていただけますか?」
やっとティラルの表情が明るく変わった。サンチョはそんなティラルを二人のいる部屋に通した。
ようやく鬱々とした状態から脱したティラル。二人は話をする場を応接間から、リュカたちの居室に移す。同時に石化したリュカも居室へと移動する。 リュカを置いたその目の前には大きめのベッドがあり、そこには二人の赤子が気持ち良さそうに眠っていた。
「…こちらがアスリーヴァルム様、そしてこちらがレシファールトス様です」
サンチョはそう言って分かりやすく青と赤の服を着せられている赤子を見せて紹介する。
「…先ほどから言っていたのは呼称でしたか。…レシフェか。もしかするとこの子が・・・」
ティラルは二人のうち、女の子レシファールトスことレシフェに興味を持った。
まだ眠っているが、二人の子たちは不思議と何かがありそうな予感を持たせる。
「さてと、シルフィス、話は聞いたとおりだ。どうする?」
ティラルはそう簡潔にシルフィスに訊ねる。シルフィスは訊ねられてから姿を具現化して現れる。ティラルの肩に座って足を組み少し考え込む仕草を見せ た。
「あたしはサンチョ殿の命を受けて、グランバニアに残る」
「…私もティラルさまに従いますが…基本は今まで通りティラルさまに必要な情報を収集します」
シルフィスはそう言ってティラルの様子を見ていた。
「一つ、頼まれてくれないか?」
不意にティラルがシルフィスに頼みごとをくちにする。何でもどうぞ、とシルフィスもその様子にすぐに従う仕草を見せた。
「…例の『刀』を持ってきて欲しい」
そのティラルの言葉にシルフィスは驚いた表情を見せた。
「あの方の生まれ変わりが…レシフェさまだと?」
「多分…。それを確認するためにも、あの『刀』を持ってきて欲しいんだ」
それから数ヶ月経ったある日。
「ティラル様、大変なことが・・・!!」
そう言ってティラルとシルフィスの居る部屋にサンチョが駆け込んできた。
もうアスラもレシフェも座ることが出来るようになり、興味のあるものは手にとって振り回したりすることができるようになっていた。
慌てているサンチョを落ち着かせて話を聞こうとしたが、落ち着いて話をするどころではないと言った様子でサンチョはとにかくティラルの手を引いてア スラとレシフェの居る元につれてきた。
そこにはいつものようにアスラとレシフェが居たが、そのアスラの手に小さなレプリカの剣のようなものを持っていた。それはどこかで見たことのあるも ので、だが「小さい」ことに違和感を感じずには居られなかった。
「・・・まさか、天空の剣!?」
ティラルが言うとサンチョは頷く。アスラがその手に持っているのは天空の剣だった。だが、本来の剣の大きさからするととても小さく、赤子のアスラに ちょうど良いサイズになっていた。
話によると祖父に当たるパパスの話をしていた時に侍女が天空の剣を持ってきていたと言う。持たせるまではしなかったそうだが、目を離したときに剣を アスラが持ったらしい。すると、アスラの身長以上だった天空の剣が小さく縮んだのだそうだ。今はアスラの身長と同じ程度の小さな剣で、刃は刃引きされ ているようで切れることは無かった。
「ティラル様…これは・・・」
サンチョの驚きの様子に姿を現したのはシルフィスだった。
「アスラさまが・・・天空の勇者!?」
少し呆然とした様子でシルフィスが呟いた。さすがのティラルもその言葉に驚いて見せた。
「天空の勇者、ですと!?」
サンチョもその言葉には少しパニックを起こしたような感じになっていた。
「…天空の装備は、その血が流れていないと装備することは出来ません。リュカさまは持ち歩いていたようですが、装備までは出来なかったんだと思いま す。勇者を捜す旅をしていたと言う点からも納得できます」「だけど…そうだとしたら、グランバニアの出であるリュカは違うから、…ビアンカさんが天空の血を引く者だと?」
シルフィスの言葉にティラルが訊ねかける。
「おそらくは…ビアンカさまが天空の血を引く者なんでしょう。それと、天空の装備は使用者に合わせて大きさや仕様が変わるそうです。今はアスラさま がまだ小さいですから、自傷しないようにと大きさなどを剣自身が変化したんだと思います」
シルフィスの言葉にその場の誰もが納得した様子を見せていた。ティラルもアスラを神々しいものを見るような瞳で見つめていた。
少し沈黙の時間が流れる。ティラルはふと思い出したように背中に背負っている白木の棒を取り出す。
「…アスラだけにプレゼントなんてずるいよね。レシフェにはこっち」
ティラルはそう言って棒をレシフェの前に差し出す。それはティラルの腰ほどまでもある長いものだったが、レシフェが手に取ると、その重さを感じさ せないくらいに軽々とそれを持った。そしてティラルはもう片端を持ち一気に抜き払う。それは翠色の刀身に白い刃紋の浮いている片刃の剣−刀−だった。
ティラルとシルフィス以外は皆がその刃物をもたせたティラルに注意をしようとする。
しかし次の瞬間にレシフェをみると、長い刀だったものは短刀にまで短くなり、刃は殺がれてレシフェの手の中に納まっていた。ティラルの持つ鞘もま た、ティラルには小さすぎるほどのものになっている。「・・・!!・・・ティラルさま、レシファールトスさまはやっぱり・・・!」
その様子を見て、興奮したようにシルフィスが声を上げた。ティラルも興奮した表情でアスラとレシフェを見つめた。
「はは・・・凄いや。アスラが天空の勇者ならば、レシフェは竜の女王か!!」
ティラルがそう言うと、周りの皆が一斉に驚く。
「サンチョ殿には『レシフェ』のことについて話をする必要がありそうです」
ティラルは嬉しそうな顔をしてサンチョの方を向くと興奮気味にそう言った。
場所を移したサンチョとティラル、シルフィスはとりあえず落ち着こうと椅子に座って呼吸を整える。
「まず、アスラについては先ほどシルフィスが説明したとおり」
「では、本当に天空の勇者だと言うのですか!?」
ティラルが少し落ち着いたところで話を始める。だが、目の前で起こった突然の出来事にサンチョはまだついていけてないような感じだった。
サンチョの言葉に答えたのはシルフィスだった。「…はい。先ほども申し上げた通り、天空の装備は天空の勇者にしか装備が出来ません。また、その装備は時々の勇者に合わせて形を変えると言う言い伝 えもあります。まだ赤子ながら、勇者の血が目覚めているアスラさまに対して、危なくないように剣自身が形を変えたのだと考えられます。これは他の盾や 兜、鎧でも同じ事が言えるはずです」
シルフィスが言うと、サンチョの興奮がまた蘇ってきたようで両手をテーブルについて立ち上がる。
「…お嬢様とビアンカちゃんの間に天空の血が…?」
少し混乱気味のサンチョが呟くと、シルフィスはサンチョの手元に降りて話を続けた。
「正確にはビアンカさまが天空の血を引いた者です。リュカさまは正当なグランバニアの子ですから、ビアンカさまについては間違いありません。天空の 血が偶然目覚めたのか、目覚めるべくして目覚めたのかは疑問ですが…」
考え込む仕草を見せながらシルフィスはサンチョに言った。それを聞いていたティラルはシルフィスの言葉に訂正を加える。
「偶然じゃないね。リュカの創成王の血とビアンカさんの天空の血が混じったことで、生まれるべくして天空の勇者は生まれたんだ」
自分では納得したと言った感じで頷きながらティラルは言った。
「創成王・・・ですか?」
今までの説明の中に出てこなかった言葉に疑問を持ったサンチョはその言葉を繰り返す。不思議な響きを感じていたが、それがどんな意味かまではわか らなかった。
「サンチョ殿はグランバニアの創成者のことは・・・?」
不思議そうに首をかしげていたサンチョにティラルが言葉を続ける。
「お名前だけは…確か『レシフェ』様と・・・」
「そう。グランバニアの創成者にして初めの王はレシフェと言う名で、あたしの大親友なんだ」
サンチョが尚も首を傾げてティラルからの質問に答える。それを聞いてティラルは懐かしむような表情を見せて、創成王の話をする。
「彼女は世が不穏に包まれたとき、自分の血を引く者、もしくは転生した姿で再び姿を現すと言っていた。レシフェに持たせた片刃の剣は、創成王が使っ ていた剣でね。きっと赤子のレシフェが育ったとき、あの特殊な剣の使い方はすでに心得ているはずだ」
「それが…創成者であるレシフェ様の転生だから、と言うので?」
ティラルの説明にサンチョはいまいち合点が行かないと言いたそうな声でティラルに訊ねる。訊ねたあとになってサンチョはあることに気付き表情を一 変させる。
「…大親友?まさか、グランバニアの歴史書に残る『右腕』とはティラル様…本当にあなた自身の事なのですか?」
ひれ伏す感じでサンチョが声を上げるが、それをティラルは止めた。
「…うん、グランバニアの建国のときにもあたしはここにいた。そして、あの片刃の剣を使っているレシフェを見ているし、レシフェ自身のことも良く 知っている。それからはグランバニアの一族、ひいてはパパス殿やリュカをも見守ってきたんだ。リュカ自身に創成王レシフェの血が目覚めていることに気 付いては居たんだけど、どうやらこちらも天空の血に触発されてか、その子にレシフェ自身の血が目覚めたんだろうね」
もっともらしくティラルは説明する。それを聞き、サンチョはとんでもない事態になっていることに改めて気付かされる。
「レシファールトス様が創成王の転生・・・!しかし、となると世の中はそこまで不穏な空気に包まれているのですか?」
我に返ったサンチョは少しずつ状況を整理しながらティラルに尚も説明を求める。
「リュカがあの状態になったから、血が生まれたのかも知れないし・・・」
そこまで言うと、ティラルは少し考え込んだ。その続きはシルフィスが語る。
「実は私とティラルさまは不穏の元…邪悪なる者の活動を確認しています。その不穏を根絶するために、とも考えられますし、またパパスさまのお后様、 マーサさまの誘拐が原因とも・・・」
情報を引き出しながら、シルフィスはサンチョに分かりやすく説明していく。しかし情報量が多すぎてサンチョでも理解できるまでに時間がかかってい た。
「…最終的に言えることは、それら全てが『不穏』として認識した血は、天空と創成王の血を目覚めさせた、と言うことに間違いは無いんだと思う」
シルフィスが話を続けようとするのをティラルは止めて、結論をサンチョに言った。それを聞いたサンチョは納得したように頷いた。
「…一つ一つは小さな事だけど、全ての裏が繋がっていたとしたらやっぱりただ事じゃない。そう言う意味でも、二人の子の血は必然として生まれたんだ ろうね」
掴んでいる全ての事象を説明するには少し時間が必要だった。それを適度に省略して結論をティラルはサンチョに伝えた。
天空の勇者と、グランバニア創成王の転生が生まれた。このことが後にどう影響するかはサンチョにも想像できなかったが、それでも希望が生まれたこと には違いが無かった。
それからアスラは天空の剣を、レシフェは天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)を、それぞれのおもちゃとして育っていく。言葉を話し始めた頃には二 つの剣はかつての姿にまで戻り、同時に二人は天性の剣技を身に着けていた。
天空の勇者と創成王の転生のことは王族の中でもオジロンの親族とティラル、シルフィス、サンチョ以外には、リュカの仲間の魔物たちにだけ伝えられ る。
その事実が分かってから約六年の月日が流れる。
城壁と外壁の間にある広場では今日も威勢のよい男の子と女の子の声が上がっている。二人とも明るい金髪で、男の子は癖のある髪を無造作に後ろで 縛っている。女の子はおかっぱ頭で左右に小さなリボンを留めていた。
そんな風に大きくなったアスラとレシフェにティラルが一人で剣術を教え込んでいた。「ほらほら〜、そんなに腰が引けてちゃ伝説の勇者と創成王の血が泣くぞ〜」
左右に構える二本の剣で、入れ替わり立ち代り攻撃を仕掛けてくるアスラとレシフェを往なしていく。ティラルは平静とした顔で二人の攻撃を受け止め ていたが、それでもアスラもレシフェも、もう大人顔負けに剣術を使いこなすほどに技は叩き込まれていた。
ティラル、アスラ、レシフェ以外には、ピエールとオークスが自慢の剣と槍を持って、三人の姿を見ていた。「そこまで」
ピエールの声がかかって、三人は構えを解く。模擬戦として仕合っていたが、それもなかなか第三者が横に割り込んだりは出来るような状況ではなかっ た。時にはレシフェとピエール、アスラとオークスのコンビでの仕合もしていたが、それも長年のコンビ同士のような完成度の高い仕合を見せていた。
「ふー、ティラルさんてば全然手加減無しなんだもんな〜」
深呼吸をしながらアスラがぼやく。その手には自慢の天空の剣が握られていた。
そんなアスラのすぐ横には肩で息をしているレシフェの姿もあった。「まったくです…お兄様とのコンビが一番確実なのに、それでも往なされるんですから…」
細身の片刃の剣−天叢雲剣−を手にしたレシフェもぼやきながらティラルを見る。そんな様子を見ていたピエールが軽く笑い飛ばすようにしてティラル の方に近づいていく。
「そんな事を言っているのではまだまだだな。ティラル殿は微妙な手加減が上手い。我らでさえ弄ばれるのに、お二人に簡単に倒されては、我々が教育な ど出来たものではない」
そう言うピエールの言葉にティラルは笑顔を漏らして答える。
「えっ!?ピエール先生、ティラルさんまだ手加減していたんですか!?」
アスラは冗談じゃないと言った様子でピエールに訴えかける。
「本人に聞くのが一番早いだろう?」
そのアスラと驚いた表情で固まっているレシフェを見ていたオークスがティラルに真相を聞くように促す。その言葉を聞いて、ティラルは嫌味の無い笑 顔を浮かべて一回頷いて見せた。
「そ、そんなぁ」
「でも、二人だって随分なものだよ。ピエールやオークスまでには及ばなくても、充分強くなってる。ただ…二人の父であるリュカにはまだ及ばないね。 リュカはあたしと一対一で常に渡り合っていたから。でも常に稽古すれば、リュカに追いつけるよ」
ティラルはそう言って二人に近づくと、それぞれの肩を優しくなでて見せた。レシフェの肩に置いたティラルの手の上にスッと妖精の姿が現れる。
「敵わないと言っても、ピエールさんやオークスさんとは充分に渡り合えると聞きましたけど?」
姿を見せたシルフィスはそのままレシフェの方を向いてそう訊ねる。それを聞いたアスラはあからさまに分かる溜息をついて見せた。
「それだって、実戦になったらどうなるかわかったもんじゃない。結局はまだまだってことなんだよね、ティラルさん。…シルフィスさんだって、そう言 うことが言いたいんでしょ?」
そう言ったアスラにティラルとシルフィスは少し表情を曇らせて、困った顔をして見せた。
「お疲れ様です、ティラル様、シルフィス様、ピエール殿、オークス殿」
余り訓練しているところに姿を現さないサンチョが声をかけながらやってきた。
「いかがですか?お二人は」
サンチョが訊ねると、ぶすっと頬を膨らませてアスラが言った。
「いま、まさに駄目だしされてたところですよー」
納得できないと言った風なアスラに、ティラルたちは笑って見せた。
「もう、二人だけで旅に出しても充分すぎるほどです。あたしたちには敵わないってだけで」
苦笑いするサンチョにティラルも困った風な表情を浮かべて返答した。
「・・・では、そろそろよろしいですか?」
その言葉は突然だった。アスラとレシフェは一瞬話についていけない雰囲気でいたが、すぐにそれが何に対する言葉であるか理解できた。
「ええ、もう問題ないでしょう。後はシルフィスの情報から、石化を解く術を見つけ出せば、と」
サンチョにティラルは丁寧に言った。その言葉を聞いて、ピエールたちにも目配せをする。
「先ほど、マーリン殿にも話を聞きましたがもう基礎も応用も充分に出来ると言うことです」
ここに来る前、サンチョはマーリンの元を訪れ、やはり同じようなことを聞いていた。
「アスラ様、レシフェ様。お二人は父上の石化を解除する術を、そして母上を捜し求める旅をするだけの覚悟はおありですか?」
二人は突然サンチョから言われて戸惑いを見せる。だが意味を理解すると二人とも力強く頷いた。それを見たティラルとピエール、オークスは頼もしそ うな笑顔を見せた。
「分かりました。では、これから準備を始めて、明日には出発いたしましょう。お二人と私の三人で」
サンチョの言葉にアスラとレシフェはその場で飛び上がるほどに喜んでいた。
「・・・さて、それじゃあたしも久しぶりに旅を再開するか」
地面に突き刺していた二本の剣を抜き、華麗に背中と腰の鞘に収める。ティラルの言葉を聞いて、レシフェは不安そうな顔をしてティラルに言う。
「ティラルさんも一緒に来ていただけませんか?」
レシフェの言葉にアスラも同意するが、それをサンチョが止める。
「ティラル様は別に仕事がおありとの事です。それを今まで無理矢理にここに居てもらったのです。このあたりで旅に戻っていただく約束でもあります」
サンチョはそう言って、アスラとレシフェに納得するように促す。
「…そうだね、アスラとレシフェと一緒に旅するにはまだ、刻(とき)じゃない。凄く近い未来に一緒に旅することになるから、その時まで力をつけてお いで」
普段は断言するような口調で厳しい言葉遣いをするティラルだったが、このときは珍しく優しい口調で話していた。それがどんな意味合いを持っている のかレシフェには分かり、残念そうに俯いた。
「あたしも二人が行くところとは別の場所で石化を解く方法を探すんだ。そんなに悲しそうな顔をしないでよ、もう会えないなんてわけじゃないから」
「我々が行くところもティラル様とシルフィス様にお二人の稽古の合間を縫って調べていただいた場所です。それ以外にも少しの可能性があるところはと にかく調べねばなりません。そのためにティラル様には別行動を取っていただくことになります」
レシフェの悲しそうな顔にティラルが困ったような仕草をして呟いた。それをサンチョがフォローするように丁寧に説明してみせる。その言葉を聞いて 二人は渋々納得して見せた。
「じゃあ、ピエール先生やオークス先生たちは?」
今度はアスラが訊ねるが、ピエールが首を横に振った。
「我々も別に情報確認のために旅をします。なので、アスラ殿とレシフェ殿とは別行動になります」
そうピエールは少し残念そうな声で言った。
「なにがそんなに心配なんだい?」
何かと誰かを同行させたがる二人に少し疑問を持ったティラルが訊ねる。
「まだティラルさんに二人でかかって行っても往なされるし、戦闘時であってもピエール先生たちに敵わないんじゃ、お父さんの石化を解く術を見つけ出 すのに時間がかかるよ・・・」
「それに、私たちではサンチョ小父様を守り通せるかどうかも不安です」
アスラとレシフェが何でも隠すことなく相談をしてきたティラルに自分の胸中を語る。それを聞いたサンチョは思わず笑い出していた。
「なっ、サンチョ小父さん笑わなくたって良いじゃないか」
「そうですよ、私たちは本気で心配しているんですから」
抗議するアスラとレシフェに、サンチョはありがたいと礼を言っていたが、それでも笑いが止まらない様子で居た。暫くしてようやく声を抑えたサン チョがアスラとレシフェの頭の上に手を置いて話し始めた。
「アスラ様もレシフェ様もご心配ありがとうございます。ですが私とてお嬢様が赤子の頃、お嬢様をお抱えしてパパス様とともに旅をしていたのです。今 のお二人には劣りますが、自分で自分の身は守れますからご安心ください」
そう言うサンチョだったが、アスラとレシフェはそう言っているサンチョの言葉の信憑性は薄かった。
サンチョはどちらかと言うと小太りで走り回るのが不得手と言ったイメージが率先していた。しかも家事一般が得意で外でのことを語ることも少なかった ので、どうしても旅には不慣れだと思われがちだった。「サンチョ小父さんの得意な武器は?」
不意にアスラが質問するが、サンチョはすぐに返事を返す。
「主に槍を使いますよ。ご想像通り、走り回るよりは振り回す方が得意ですしね」
サンチョはそう言ってアスラに腕を強調して見せた。そんな様子にアスラとレシフェはホッとした表情を浮かべる。
「さぁ、そんなことより明日の準備をしましょう。出来れば朝には出発したいですからね」
そう言ってサンチョは二人を城の中に促した。だが、レシフェは少し淋しそうな顔をしてその場に立ち止まる。
「…ティラルさんも明日?」
振り向いてレシフェはティラルにそう訊ねる。親しみをもち姉とも捕らえているのか、レシフェはティラルの行動も気にしていた。ティラルは何かを言 おうとしたが、一瞬息を飲む。そしてレシフェに笑顔を見せると一回頷いて言葉を続けた。
「行く場所は違うけど、出発は一緒にしようか。何も言わずに分かれる必要もないからね」
その言葉にレシフェは安心すると、ティラルに抱きついた。ティラルはそんなレシフェの頭を軽く撫でていた。
その夜は小さな晩餐が開かれて、かつてサンチョが一人暮らしをしていた部屋に集まっている仲間たちも合わせて食堂に通された。全員で情報交換と共有 化をして、これからの旅に備える。
翌朝、サンチョ、アスラ、レシフェのグループと、ピエールたちのグループ、ティラルとシルフィスのグループはそれぞれ違う場所に向けて、リュカの石 化を解く方法を求めて、または現段階の情報交換のために旅を始めた。
グランバニアでは引き続きオジロンが政を取り仕切っていた。かつて一部富裕層の反乱で、リュカがグランバニアに戻ったときにビアンカが誘拐され、 続けてリュカ自身も行方不明になった。グランバニアの城の内部ではその事件絡みで不穏な動きがいくつか見られたが、全ては外部で魔族までが関わって、 最悪の結果を迎える。
リュカを父に持つアスラとレシフェはその事実を物覚え付いたときから知らされていたが、その事実にも前向きに捕らえるように教育がされ、剣技や呪 文、それ以外の知識についてもグランバニアの賢者たちが直々に教え込む英才教育がなされた。六年のときを要して二人はまだ不十分ながらも旅に出られる だけの実力を認められ、六歳の年にリュカの石化を解く術を求めて旅に出る。
サンチョと共にアスラとレシフェが旅立ってから、更に二年の月日が流れる。
この二年間、サンチョ、アスラ、レシフェは手掛かりを見つけて世界各地を奔走していた。そして情報からその術は杖で出来ることだと判明すると、そ のときから杖探しの旅になった。だが、その杖は太古の昔に使われたものであり、現存するかは確かではなかった。わずかな情報を得てはグランバニアに戻 り、膨大な資料を有する書物を基に調べ漁り、また別の国の手助けなども借りて調べて行った。
時は天空の勇者が誕生して、魔族たちが闘いを挑んでいた頃。当時魔族たちの拠点として「デスパレス」と言う建物が存在していた。そのデスパレスは勇 者たちに使われては不都合なものはもちろん、更に古くから伝わる神器なども保管していた。その中には、古くに伝わる闇の帝王を復活させるために、地中 で石化していると言うその身体を甦らせるために使われた杖もあった。その杖は「ストロスの杖」と呼ばれて、実際に闇の帝王は石の状態からその杖の魔力 を使って、随分弱った姿ながら復活を果たしたと言われている。
この伝説の真相は確かめようがなかったが、今のアスラたちには石化を解いたと言うことだけが重要だった。グランバニアを初めとしたあらゆる場所や伝 説を辿り、かつてのデスパレスの位置とその地形を確認して、杖探しが始まる。
有力情報集めから杖を探し出すまでに二年。その作業の中にはあらゆる意味で規格外の能力を有したティラルの姿もあり、それ自体が化石に近い形になっ ていたストロスの杖を発見したのは他でもないティラル自身だった。
「これでやっと姫父様とお話が出来ます」
グランバニアの門をくぐる三人の姿がある。魔力を秘めた槍を持ったサンチョ、それより更に強い力の宿った剣を背に背負ったアスラ、ストロスの杖を 抱え込み背中には超細身の反りを持った剣を持つレシフェだった。
グランバニア城の最上階にあるリュカとビアンカ、アスラとレシフェが過ごした居室に、今はリュカの石像が置かれていた。「さ、レシフェ様。その杖でお嬢様を…」
「はい、サンチョ小父様」
リュカの石像を正面に見据えてサンチョはレシフェに促した。レシフェは杖を掲げると、口の中で何かの文言を唱える。するとその杖の先端にある宝玉 からまばゆい光があふれ、リュカの灰色になっている身体を満遍なく照らしていく。少しずつその灰色は引き、替わりにその部位に相応しい色が付いてい く。肌には赤みが差し服も本来の色を取り戻していく。リュカ自身の全ての箇所が灰色から色が変わると、ストロスの杖は音もなく崩れ去った。
使えて一回だろう−−ティラルはそう言っていた。本来であればビアンカの石化についても杖で戻すところであったが、それは叶わなかった。だが、とり あえず今は目の前のリュカが助かったことを喜ぶ。「あ・・・れ?ここは・・・?」
石像のほうから声がする。ようやく戻ったリュカは少し戸惑った表情を浮かべてあたりを伺っていた。
「お嬢様、お分かりになられますか・・・?」
サンチョが声をかけ、リュカは声の方を振り向いた。そしてサンチョの姿を確認すると今の状況に更に混乱する。
「ここは・・・グランバニア?わたしはビアンカ姉さまを助けに・・・!!」
リュカはそこまで言うと、何かを思い出す。その事についてサンチョは力なく首を振る。リュカは改めて自分の姿を見つめなおした。
「わたしとビアンカ姉さまは石化させられて・・・。」
そこまで言ってようやく、自分の前に居る二人の子供をリュカは認識する。
そこに居たアスラとレシフェは実際に動くリュカの姿を見て、瞳にいっぱいの涙を浮かべて、だが身体は固まったように動くことが出来ずにただじっとし ていた。「もしかして・・・アスラ!レシフェ!」
リュカがしゃがみこみ両手を広げると、はじかれたようにアスラとレシフェはリュカの胸に飛び込んで行った。
「お父さん!!」
「姫父様!!」
アスラとレシフェは瞳に涙をいっぱいにして泣きながら、小さな身体でリュカを抱きしめた。リュカも産まれて間もなく見ていなかった子たちが成長し た姿にただ涙を流して見つめていた。
暫くそうしていたリュカが我に返り、二人の頭を左右の手で掴むと優しく撫でる。「お久しゅうございます、お嬢様」
「サンチョさん・・・わたしは何でグランバニアに?それと・・・アスラとレシフェがこんなに大きいとすると…?」
サンチョの丁寧なお辞儀をするあたりはまったく変わっていないと言った感じだったが、よく見るとサンチョも少しだけ年を取ったようにも感じられ た。
「ティラルさんが石化したお父さんを連れ出してくれたんだよ」
「そのときにはもう、お母様は居なかったんだって・・・」
初めの質問にはアスラとレシフェが答えた。二人の口からティラルの名前が発せられたことに驚いたリュカだったが、自分のことを守ってくれたほどの 人だから、二人の子とも見ていてくれたのだろうと納得した。それからサンチョの方に目を移すと、サンチョも涙を浮かべながら話し始めた。
「お嬢様が石化させられたときから八年です。お嬢様には一瞬の出来事だったのでしょうけど・・・」
その年月を聞いて、リュカは気が遠くなる思いだった。他にも訊ねることは沢山あったが、今は石化を解いてくれた三人に感謝の気持ちでいっぱいだっ た。
「…でもぉ・・・『お父さん』は違和感だなぁ。男であっても、精神は女だからね・・・」
頭をかきながらリュカはそう呟く。それを見てアスラとレシフェは少し悪い気がしていたが、自分たちにとっての父がリュカだったため、どうしたもの かと困るような仕草を見せた。
「でも、二人にとっては父に変わりないから、好きなように呼んでね」
苦笑いをみせながら、優しい笑顔でリュカは呟いた。
そんなリュカがふと、二人がそれぞれ背負う剣に目をやった。レシフェの剣は見たことのない特殊な剣と言うことは分かったが、それ以上にアスラの背負 う剣にリュカは驚く。「その剣は・・・!!」
「天空の剣、だよ。ぼくにだけ使うことが出来るんだ。天空の盾も…ほら」
そう言ってアスラは天空の剣を鞘から抜き放つ。同時に天空の盾も構えて戦闘態勢を取る。
「この子が・・・」
「はい、天空の勇者だと。ティラル様も仰っていましたし。それに、剣をこれだけ軽々と構えられるのが何よりの証拠でしょう」
呆然としているリュカにサンチョが言った。
「姫父様、私には使うことが出来ないんです」
サンチョの言葉のあとにレシフェが寂しそうに言う。リュカはそのことで、アスラ一人が天空の勇者であることを知る。
「だけど、レシフェだって凄いんだ。特別な剣も持ってるし、呪文はマーリン先生の一番弟子なんだ。ピエール先生の話だと、剣を扱って呪文を唱えるの はお父さんと同じなんだってね。ぼくにはそれは出来ないんだよ」
子供たちの言う言葉の一つ一つが、短くも長かった時間が流れた証として示される。そこには仲間たちの名前もあり、リュカは皆が無事であることもこ こで知った。
「わたしが何も出来ない間、サンチョさんやティラルさん、仲間たちがアスラとレシフェを育ててくれていたんですね、ありがとうございます」
我が子の成長を見て、リュカは改めて涙を流し、サンチョに頭を下げた。サンチョもそんなリュカの仕草に頷いていた。
それからリュカは一旦状況を整理したいと、時系列で起こったことを聞いていく。
ティラルが異変を感じてデモンズタワーを捜索したがすでにリュカしか姿を見つけることが出来なかったこと、ティラルを中心にアスラとレシフェの剣と 呪文など旅に関する教育をした事、その間ビアンカの行方と石化のことをティラルが調べていたこと、アスラとレシフェが六歳になってから三人で石化を解 く術を探し旅を始めたことなど。
一通り話を聞き、状況を知ったリュカは突然動き出した疲れなどもあったのか、早い時間に就寝する。今まで一緒に寝る事の叶わなかった二人の子と一緒 に。