5.ラインハット

 翌日、リュカとパパスはサンタローズからラインハットへ向かう。
 かつてはサンタローズ・アルカパのあるレヌール領とラインハット領が隣国と言う形で存在していたが、レヌールが断絶してしまったことで、ラインハッ トが友好関係にもあったことから、レヌール領をそのままラインハット領としてあわせて、いまの大国が出来た。
 今まではラインハットとレヌールに分かれていた旅人たちのキャラバンは、いまは全てがラインハットに向かうようになっていた。そのため、ラインハッ トの城下町はそれまでにないほどに賑わっていた。
 パパスはリュカの手を引き、離さないように注意しながらゆっくりと城下町を進む。リュカはリンクスを抱えて、パパスを見失わないようにと必死になっ て付いて行った。賑やかな城下町を抜けると、目の前には立派な城門を構えた大きな城が迫っていた。

「ここがラインハット城…すごく、大きいですね父様」

「うむ、この辺りの全てのことについて取り仕切っている場所でもあるからな。こういった大国はあまりない。城として構えるのは他に、テルパドール、 グランバニアと言う国ぐらいのはずだ」

 パパスはリュカの見聞を広めようと、旅のときは自分の知る知識を惜しげもなく披露する。そして、リュカもたいていのことは一度聞いて覚えることが 多かった。その中のひとつ、グランバニアの言葉には、リュカも何度か合ったことがある。不思議そうにパパスに訊ねる。

「父様、そのグランバニアと言う国は、なにか父様と関係のある国なんですか?」

「ん?なぜそんなことを言う?」

 リュカが珍しく、単刀直入に質問してきたので、パパスは少し驚いた顔をしていた。

「いえ、何か引っかかるものがありましたから…」

 リュカも確証があって訊ねたわけではなかったので、それきりになってしまった。
 このときパパスはリュカに対して声にならない言葉で謝っていた。
 城門で兵士に自分の身分を明かし、場内に案内される。そして、謁見の間の前では、この国の大臣と名乗る者に連れられてラインハット王の前まで連れら れてきた。

「サンタローズのパパスと申します」

 丁寧な挨拶とともにパパスは一礼する。

「ご苦労である、…が、その隣にいるのは…?」

「これは私の娘です。リュカ、陛下にご挨拶しなさい」

「はい、初めてお目にかかります。パパスの娘のリュカと申します」

 リュカは失礼のないよう、あまり深くもなく、決して浅くもない丁寧なお辞儀をして、王の前で挨拶する。

「ご依頼いただいた、ヘンリー殿下の相手が務まるかどうかはわかりませんが、リュカにとってもいろいろと勉強になると存じまして、このたび連れてま いりました」

 パパスはそう言って少し緊張しているリュカの頭に手を乗せてそう言った。

「さて、父さんは少し陛下と話がある。リュカ、良い機会だから城の中を見せてもらいなさい」

「はい」

 丁寧な返事をして、リュカは再びラインハット王に一礼して、その場を出て行く。

 

 パパスはそれを確認すると、懐かしい顔にあったような喜びを表すような笑顔を作る。それはラインハット王−ベルギスもそうだった。

「久しぶりだな、ベルギス」

「うむ、こんな形で呼び出してしまって済まない、本来ならこちらから出向くのが・・・」

 ベルギスが申し訳なさそうにパパスに言うとそこでパパスは言葉を止めた。

「気にするな。今は一介の戦士だ。それに娘に甘い父親だとサンタローズでは言われているよ」

 かつてパパスとベルギスは冒険をともにした仲だった。そして、お互いが王子と言う身分であったが故、時間とその立場が変わるに連れて、なかなか会 う機会がなくなってしまっていた。それでも、いまでもラインハットとグランバニアは友好国としての協力関係を築いている。

「…そう言ってもらえると助かる。しかし、今までしていたことをしなくなると、こうも身体は駄目になってしまうものだろうか…」

「何を言っているんだ、まだまだ元気じゃないか」

 突然、ベルギスが表情を曇らせて、パパスに言う。突然の告白でパパスも驚いていたが、見た感じでは恰幅良く、しかしパパスのように締まるところは 引き締まっているいい身体をしているように見えた。

「…自分の身体は自分が一番良くわかる。国のためと忙しくしていたが落ち着いた途端、この異変。もう私は長くはないだろう…」

 ベルギスはそう言って、ふぅと一回溜息をついた。パパスはそんな様子を切なそうに見つめていた。

「手紙を読んだとき、なにかを感じていたんだろう?…気がかりがひとつだけあってな。それがヘンリーのことだ。母親が亡くなって、しかし私一人の手 には負えんと継母を娶ったが、それもあまり良くはないみたいだ。そうしているうちに甘やかしてしまったからな」

 そう言って、ベルギスは玉座から立ち上がる。立ちくらみとも取れるようなよろめきがあったが、それが体力の低下が原因であることは、医師でもない パパスにも感じ取ることが出来てしまった。ベルギスはパパスの右腕を取り、うつむくようにして言葉を続けた。

「…ヘンリーに今必要なのは、厳しい父親の存在だ。長男だからとはいえ、王位が関わってきては一筋縄ではいかない。ヘンリーがもっと自意識を持ち、 自身に他人に厳しく優しい…そう、お前みたいな人間になってくれればと思う」

「…私を後見人にしようとでも言うのか?」

 ベルギスの言葉にパパスは困った様子を見せた。だが、儚さをみせてかすかに笑うベルギスを見ては、それを突っ返すといったこともパパスには出来な かった。

「味方がいなくては、仮に王位を継げなくとも納得できまい。そのくらいの厳しさをわからせることの出来る父がヘンリーには必要なんだ。…すまん、実 の父がこの体たらくでは威厳も何もあったものではない」

 ベルギスの言葉に、どこか打たれる感じのしたパパスは、それでも実父がどうにかすべきだと言いたかったが、いまのベルギスがヘンリーに対しての威 厳が強く出せないでいる影が見えないわけでもなかった。また、その王位の背後には何かがあるとしか言えなかった。当事者であるゆえに手が出せないので あろうことも汲み、パパスはベルギスの肩を軽くたたいてこう言った。

「わかった、お前の言うようにしよう」

「ありがとう、パパス」

 二人の戦友は久々の再会にしては少し重苦しいものになってしまっていた。

 

 その頃リュカは正門の方に向かって、廊下を歩いていた。小さなリュカが一人で歩くと、先ほどパパスと一緒にいて大きいとしか言えない感想だったも のが、さらに大きく感じる。その広い廊下を歩いていると、先の部屋からぞろぞろと人が出てくるのが見えた。リュカは慌てて廊下の端によりその集団が通 り過ぎるのを待つ。集団ではひときわ豪華なドレスを身に纏った年の行った女性と気の弱そうなリュカと同じくらいの男の子、それ以外は衛兵や侍女といっ た者たちが列を作っていた。
 パパスからはこういった集団に対しては自分より目上であることが大多数のため、きちんと礼を尽くすようにと躾けられていた。リュカはそれにのっと り、集団が自分の前に差し掛かったときに礼をして通り過ぎるのを待った。だが、その中の女性がリュカを目に留め列を留めた。

「ほぅ、このような子であっても礼儀を身に着けているとは。見上げた少女よな。名を何と申す?」

 突然その様に話しかけられ、リュカは一瞬びくっと身体を震わせたが、堂々とした態度を心がけてその女性に向いた。

「リュカと申します」

「リュカか。どうじゃ、このデールに仕えてみようとは思わぬか?将来も約束されたようなものじゃぞ」

 その女性はそう言って、気の弱そうな少年を見てリュカに言う。だが、リュカの一存で全てが決められることでもなかったのは事実だった。

「…ありがたきお言葉ですが、わたしの一存では決められません。父様に確認を・・・」

 リュカがそこまで言うと、手に持っていた扇をパンとたたみ、それでリュカを指して言う。

「デールは次の国王になる者ぞよ、それを断るとは。ヘンリーなどよりもよほどデールのほうがふさわしいと言うのに。今のうちにデールとの人脈を作っ ておくのが良いと言うもの。心しておくのじゃな」

 それだけ言うとその女性は機嫌を悪そうにしてリュカの前から姿を消した。
 そのあと近くで見ていた侍女の一人がリュカに近づいてきて、小さな声で囁いた。

「大変だったわね。あの女性−ガーリア王妃は人並み以上に厳しいお方だから、あまり気に病むことはないわよ。でも、またあんなことがあったら逆らわ ないほうがいいかもね」

「…はい、ありがとうございます」

 侍女の言葉に少し呆気に取られたが、あれが王妃かと思い出して、リュカは少しだけ、渦中にいた少年−デールのことが心配になった。
 ベルギス王とガーリア王妃、ヘンリーとデールとの間で見えない火花が散っている後継争いは、今はまだ小康状態にあると思われていた。
 それから、そのまま下に行っても特に何もないと侍女に言われたリュカは、来た道を引き返し城の逆の区域に足を伸ばそうとした。その先で見覚えのある 人影が困ったような仕草を見せてウロウロしているのが見えた。

「父様!?どうなされたんですか?こんなところで」

 リュカが見覚えのある姿、パパスを確認してそう言う。すると、少し安堵したようにパパスは顔を緩めてリュカに向き直る。

「リュカか、ちょうどよかった。この先に第一王子のヘンリー殿下がいるのだが…どうも父さんは嫌われてしまったらしい。部屋には入るなと言われてし まってな。リュカ、子供同士ならば話も出来るかも知れん。父さんの代わりにヘンリー殿下のところへ行ってもらえるか?」

 なるほど、とリュカは納得してパパスを見る。時々パパスは子供に対してこのように手が出せなくなってしまうことが時々あった。なんでも出来そうな 父がこんなところで戸惑うのを見て少し可笑しくなったリュカは口に手を当ててクスリと笑う。

「わかりました、父様。行ってきます」

 リュカはそう言って、ヘンリーのいる部屋へと入っていった。

「誰だ、お前は!!」

 リュカが小声で「失礼します」と言いながら部屋に入ると、突然声をかけられた。緑の髪をした、リュカより少し年上と思われる少年で、先ほどのデー ルとは正反対の性格とも取れるような雰囲気だった。

「初めまして、ヘンリー殿下。リュカと申します」

「リュカ?俺は知らないぞ、何しに来た?」

 丁寧にお辞儀をしたリュカだったがその最中だと言うのに、ヘンリーは文句を返してくる。やんちゃな子供の典型とも言える印象をリュカは感じた。た だ、動き回っていないだけで・・・。

「わたしは殿下と遊べたら、と思って来たんですけど」

「遊び相手なんか必要ない。…あ、そうか、パパスとか言うやつの娘だな、帰れ帰れ」

 すっと立ち上がるとヘンリーはリュカの背中を押してドアの方にどんどんと押しやっていく。動作が丁寧なのと、優雅な部分はさすが王族といえる身分 だとリュカは思えた。

「ま、待ってください殿下。わたしはぜひとも殿下と遊びたくて…」

 ただでさえパパスが困っているのに、ここでリュカまで返されてしまったら、どうしようもなくなってしまう。そう感じたリュカはなんとか自分をヘン リーの遊び相手にしてもらおうと押される身体をなんとか踏ん張って止めていた。

「…どうしても?」

 ヘンリーがリュカのお願いに、なんだかばつが悪い顔をしてリュカにそう訊ねてきた。一方のリュカはヘンリーのほうからこう訊いていた事でいくらか でも相手になってくれそうな可能性をつかんでいた。

「はい、どうしてもです」

 ここで食い下がってしまっては、せっかくいい方向に向いた風がまた逆風になりかねない。リュカは何があっても食い下がらないつもりで返事をした。 すると、ヘンリーは無理にリュカの背中を押すのをやめて、鼻で少しだけ笑うような仕草をする。

「そんなに俺と遊びたいんだったら、俺の子分になれ。だったら遊んでやる」

 突然そんなことを言い出したヘンリーにリュカは目を白黒させる。いきなり子分だと言われてもそうですかと従うわけにも行かないし、そもそも子分な んて存在になりたいわけでもなかった。少しの間、リュカは考え込む。だが、どの程度であれ時間が経てばまた、サンタローズに帰ることになると思うと、 少しくらいは付き合っても良いかと感じられるところがあった。
 そう思ったのを感じ取ったのか、ヘンリーはリュカの返事を待たずに話し始めてきた。

「奥の部屋に子分の証がある。それを取ってきたら、お前を子分にしてやる」

 イタズラ好きの子供がするような笑みを口元に浮かべて、ヘンリーは言う。「そのくらいのことか」と感じ、リュカはヘンリーの言う奥の部屋に行く。 何かされるんじゃないかと言う不安がまったくないわけでもなく、リュカは後ろを気にしながら奥の部屋に向かったが、特にヘンリーは何かをしてくる様子 はなかった。奥の部屋に入ると、ひとりでにドアは閉まってしまう。そして、その部屋の真ん中には宝箱がひとつだけ置かれていた。
 慎重に中を覗いてみたが中には特に何も入っている様子はなく、またその宝箱自体にも何かの仕掛けがあるわけでもなかった。リュカは首をかしげてしば らくその宝箱をいじっていたが、仕掛けはどうにも見つからないため、ヘンリーの居た部屋に戻った。

「殿下、宝箱には・・・アレ?」

 先ほどまでヘンリーの座っていた机のところに、ヘンリーの姿はなかった。きょろきょろと辺りを見回すが、簡素な部屋には、特別隠れられそうな場所 はなかった。首をかしげて外に出ると、そこにはパパスが居た。

「父様、ヘンリー殿下がこちらに来ませんでしたか?」

 リュカは納得できないと言った様子でパパスに訊ねる。

「いや、誰も通ってないぞ、どうかしたのか?」

「殿下がいなくなってしまったんです…」

 リュカの言葉に少し嫌な予感を感じたパパスは慌ててヘンリーの部屋に入る。そのあとをリュカが追って入っていく。すると、叱責の声が突然かかって きた。

「こら、パパス!!お前は部屋に入るなと言っただろう!?」

 先ほどまでいなかったはずのヘンリーがいつの間にか、元居た場所に座っていたのだった。

「失礼、殿下。・・・リュカ、殿下はいるではないか」

「あ、あれれ?」

 突然の出来事にリュカは不思議そうな顔をする。だが今度はヘンリーは特に何か表情を変えるようなことはなく、平然とした態度でパパスとリュカを見 ていた。

「…リュカ、くれぐれも頼んだぞ」

 パパスはそう言ってヘンリーに一礼して部屋を出て行った。

「で、殿下、どちらにいらしてたんですか?」

 リュカが慌てて訊ねるが、ヘンリーは特に何もなかったかのように、澄ました顔をしていた。

「別にどこにも行ってないぞ。それより、子分の証はあったのか?」

「え、あ。いえ、宝箱は空でしたけど…?」

 リュカは素直に応えたが、ヘンリーからは曲解とした言いようのない言葉が返ってくる。

「なかったんなら、子分にはできないな。わかったらさっさと帰れよ」

 そう言ってヘンリーはまた、リュカを無理やり部屋の外に出そうとする。

「ま、待ってください、殿下。もう一度、見させていただけませんか?」

 このまま引き下がったのでは、本当にヘンリーとの接点がなくなってしまう。それは避けたいし、父の助けをしたいと考えていたリュカは、駄目だしで もう一度宝箱を見せてもらえるように懇願する。

「…次は見つけてくるか?」

「はい、必ず」

 ヘンリーの言葉にそう言ってしまったリュカだったが、見つかる保証もなくどうしたものかと考えていた。ヘンリーが無理に押す背中の感触がなくな り、今度は確かににやりと笑うヘンリーの顔をリュカは確認した。

「じゃあ、もう一度見てくればいい」

 そう言って、ヘンリーは元の居た場所に戻って、平然とした態度を取る。少しむっとしたリュカはそれでも一礼だけは忘れずにしっかりとして、再び奥 の部屋に入る。先ほども見た宝箱。だがやはり中には何も入っていなかった。入れ忘れなどではなく、たぶんはじめから入っていないのだろう、リュカはそ う思えてしかたなかった。
 「ふぅ」と溜息をついてヘンリーの部屋に戻ると、案の定ヘンリーの姿はなくなっていた。リュカはどうしたものかと考え込んだが、少しだけ机の周りに 違和感があることに気がつく。その状態で、少し離れたり逆に近寄ったりして、リュカはどんな違和感があるかをじっくり観察する。そして、椅子が少しだ けずれていることに気づくと、それをずらし、床に敷かれている敷物をどかす。するとそこには隠し扉があり、扉の奥は階段のようになっていた。
 リュカはそれを見つけると、ゆっくり降りていく。そしてついたところは、城の一階部分だった。当然のことながら、その場にはその階段を使って降りた だろうヘンリーの姿もあった。

「・・・・・・」

 無言でリュカはヘンリーを見つめた。ヘンリーは少し居辛そうな顔をしていたが、悪態をつく感じてはき捨てるように言う。

「なんだ、もうみつけたのか、つまらん」

 ヘンリーはそう言って小さな舌打ちをした。リュカは逆に満足そうに笑みを浮かべていた。そんなリュカが気に入らないのかヘンリーはリュカを見ると 突然言う。

「子分の証はなかったんだろう?だったら子分にはできないな。だから帰れ」

 ちょうどそこまで言ったとき、近くのドアが開く音がする。二人がその音のほうを見ると見るからに柄の悪そうな男たちがぞろぞろと入ってきていた。 そしてヘンリーの前に立つと鋭い形相でヘンリーを睨み付ける。

「ヘンリー王子だな?」

 確認するように言った。

「な、何だお前たちは!!・・・ぐっ」

 ヘンリーが言うが言葉はそこまでしか続かず、その後は微かなうめき声しか聞こえなかった。はっとしてリュカがヘンリーのほうを見ると、ヘンリーの 腹部に男の拳が入っていた。それでヘンリーは気絶してしまったらしい。

「ヘンリー殿下!!」

 リュカが慌ててその男たちに飛びつくが、あっさりと振りほどかれる。それでもリュカは負けじと再び取り掛かっていくが、今度は襟元をわしづかみに されると、勢い良く後頭部から壁に叩き付けられる。

「ぐぅっ・・・」

 リュカも低くうめき声を上げる。その隙に男たちはヘンリーを連れてその場から逃げ出した。リュカは何とか気絶しないで保つことが出来た。だが激し く叩きつけられフラフラしていた。

「た、大変・・・、父様に知らせなくちゃ」

 リュカは後頭部を抑えながら、隠し階段を上ってヘンリーの部屋から出る。
 フラフラのリュカを見てパパスは慌てた。ホイミの呪文である程度リュカを回復させると、事情を訊ねた。

「ヘンリー殿下が、数人の男たちにさらわれて・・・」

 パパスはそこまで聞き、慌てて部屋の中に入る。リュカも後を追って、隠し階段の場所を教えて一階に向かう。
 先ほど男たちが入ってきたドアは開け放たれていて、そのままの状態だった。

「父様、すみません」

「いや、仕方ない。それに殿下を守るのは私の役だったのだからな。事を大きくするのはまずい、すぐに探すぞ、ついて来い、リュカ!」

 言うが早いか、パパスはその開け放たれているドアを飛び出すと、人とは思えぬ速さで先へと行ってしまう。

「ま、待ってください、父様・・・」

 リュカは再び父においていかれてしまった。
 城下町で少しリュカは聞き込みをする。数人の男たちは目撃されていたが、その中にヘンリー王子がいたことまでは、幸か不幸か誰も気づいていなかった ようだった。また、その男たちは西の方に向かって行ったと言う話しと、最近西のほうで盗賊たちが住み着いたらしいと言う話を一緒に聞くことができた。
 リュカは父を追って城下町を出ると、リンクスとともに西の方向に向かった。

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