4.先人の置き土産
「シスターガーリア!!ご無沙汰しています」海辺の修道院まではルーラで直接来ることができた。そしてその修道院ではかつてリュカとヘンリー、デールの手で正気を取り戻したガーリアが何時来 るかわからないリュカを待ちわびていた。
「リュカ殿。…あら、今は人間のお仲間も増えたのですね」
大きな声を出してリュカがガーリアに声をかけ、それに気付いたガーリアは入り口までリュカたちを出迎えた。以前ガーリアが知る限りのリュカは魔物 を率いた魔物使いでしかなかったが、今は魔物ではなく、ティラルを初めとした人間がリュカについていた。
「…今は、身内も一緒です」
アスラとレシフェに手招きをすると、リュカは自分の前につれてくる。そしてガーリアにお辞儀するように指示する。
「私の子で、アスラとレシフェです」
簡単に挨拶を済ませると、ガーリアはみんなを修道院の中に促した。
中にはかつてリュカが世話になったときのように修行中の修道女と花嫁修業中の少女たちが忙しく今日の勤めに励んでいた。ガーリアの様子に気付いた修 道院の古老、シスタールキアもリュカたちの方にやってきた。「デール王からこちらによって欲しいと言う話を聞きましたが…なにかあったのですか?」
リュカはルキアとガーリアが揃ったところで話を始めた。
「実は、ポートセルミで珍しい武具などを展示していたことがあったのです、いまから五年くらい前の話でしょうか。なんでも勇者が没した後に現れた勇 者にも匹敵すると言う戦士がつけていたと言う真紅のマントなのですが…」
要領を掻い摘んで話していくガーリアの言葉にティラルが反応する。
「…それは『王者のマント』と言うものではないですか?」
「…確かそのような名前だったと思います、ご存知なんですか?」
そのマントのことがティラルの口から語られる、それがどういう意味かリュカを初めとした全員がすぐに理解する。
「ええ、まぁ。そのマントがどうかしたのですか?」
話をするかと思われたティラルだったが、その辺りは省いてガーリアに話の先を促す。
「突然何者かが盗んで行ってしまったのです。考古学者たちが調べたところでは、古くにグランバニアに伝わるマントだと言うこともわかり、ポートセル ミでの展示が終わったら、リュカ殿に届ける予定だったと言うのですが」
そう言うガーリアに全員が何かわかったように頷いた。
「シスターガーリア、そのマントを奪ったものはどこに言ったかわかりますか?」
手短にリュカが質問をする。すると、ガーリアは首を傾げたが代わりにルキアが話を続けた。
「調査していた人間の話では、ポートセルミの更に北、ラインハットの北西にある『封印の洞窟』と呼ばれる場所に逃げ込んだそうですよ」
ルキアがそう説明する。
次の目的地を定めたリュカたちは修道院で一休みすると、早々に封印の洞窟へと急いだ。
その洞窟は数階の構造になっているようだった。
「姫父様、この洞窟…魔物の気配がありません」
入ってすぐにレシフェがリュカ以外の緊張を解く。リュカもそれに気付いていたようで、レシフェの言葉に頷いて答えた。フロアには石版のようなもの が一枚あり、立て札もある。
『この石版を動かすべからず』
何かの仕掛けや罠だとはわかるものではあったが、あからさまに注意されているとどうしてもそれに逆らいたくなる。アスラもそのうちの一人で石版に 触ったりして感触を楽しんだりしていた。
「お兄様、動かすべからずって書いてあるんですから触っちゃいけませんよ?」
少しお姉さんぶった調子でレシフェがアスラに注意する。が、リュカとティラルは何か解せないと言った様子でアスラと共にその石版の周りをウロウロ していた。
「姫父様もティラルさんも、お兄様のようなことしないでください」
その石版からも、そして石版のことを気にしている三人からも嫌な予感しかしないレシフェはさすがに口を挟んだが、リュカがおもむろに呟く。
「アスラ、動かそう、これ」
リュカの言葉にアスラの顔が明るくなる。その言葉にレシフェは頭を抱える。
そして二人で石版を押す。意外と素直に石版は動き、その下にはタイルのようなもので作られた禍々しい顔が現れる。瞬間、リュカとティラルは自分たち の剣に手を掛けた。少し遅れてアスラとレシフェ、サンチョが戦闘体制を整える。それほどはっきりとした気配が感じられた。「これは・・・?」
ティラルが不思議そうに周囲を見回しながら呟く。リュカも同じように剣を構えたままで首をかしげる。
「アスラ、その石版元に戻してみて」
慎重に魔物たちの気配に触れないようにしてリュカはアスラに呟く。アスラもその意味をわかっているように最小限の動きだけで石版で禍々しい顔を隠 した。
『カチッ』と言う音がして、それまであった魔物たちの気配は突然消えた。「なるほど、封印、ですか」
レシフェがそう言うとリュカはレシフェの頭を撫でて先を説明するように促した。
「この洞窟自体は魔物の巣窟のようなものなのかもしれません。ですが、おそらくこうした顔のレリーフがあちこちにあり、石版もまたあちこちにあると 思います。それで魔物たちを封印するんだと思います」
レシフェの説明にアスラが納得したように頷いた。ティラルとサンチョもなるほどと言った納得した表情を浮かべた。
「…でも、さっきの気配だけでも随分強いものを感じた…苦戦を強いられるかもしれない」
慎重に先ほどの感じを確かめなおすようにしてリュカが呟く。
「…しかしおそらくここに、四神の一人がまた居ると思います、全ての封印をすることで姿を出すと思います」
出来れば戦闘などは避けたい、そして早めに妖精の国に戻りたいと無言で訴えたリュカだったが、それを見越したようにレシフェが言う。そのレシフェ の言葉にティラルも頷いて見せた。
レシフェの言葉を確認した上で、五人は改めて装備を整える。そして下へ行く階段の前に揃う。「出来るだけ体力温存。呪文が使えないと言う事は無いと思うけど、精神力自体には限りがある。…レシフェやティラルさんの予想では四神が居る、その 四神とも闘う必要があるからね」
リュカが改めて確認するように全員に話をする。それぞれ了解の意思を見せる。そして五人で地下二階に進んでいく。
案の定、地下二階では魔物たちの殺気が一階のそれよりも強く感じることが出来た。そして実際に戦闘になると見た目はたいしたことなさそうな魔物たち ながらとてつもない戦闘力でリュカたちに襲い掛かってきた。基本的に肉弾戦中心で攻めてきていた部分を剣と呪文で対抗していたが、特に爪などで攻撃す るレッドイーター、ブルーイーターとその二つの魔物を使役するエビルマスター、そして何が起こるかわからないと言われる呪文「パルプンテ」を使うムー ンフェイスには苦戦させられる。
パルプンテの効果に至っては本当になにが起こるかわからなかったので、とにかくリュカたちはムーンフェイスと出会ったら一目散に逃げる体制をとって いた。そうして二階の全てのレリーフを封印したが、そのときにはすでに満身創痍ともいえるような状態だった。「…少し甘く見てた。ここの魔物たちは中でも強いレベルなんだろう」
深く溜息をつきながらリュカが言葉を発する。その声もどこか疲れが出ていて、すぐに先に進むのは困難な状況だと容易に取れた。
「一度、体制を立て直した方がいいかも・・・」
喜び勇んで先陣をとっていたアスラでさえも疲れた様子を見せてぐったりとしていた。そのアスラの言葉を聞き、レシフェも頷いたが、納得できない様 子の表情だったのは大人三人だった。
「アスラの言うのは最もだけど…外に出たらやり直しになるような気がする」
ぐったりと首をうなだれてティラルがそう言った。その声にリュカとサンチョが同意する。
「じゃあ、このまま先に進むしかないの?」
少し悲観するような声を出して、アスラが言う。そんなアスラにリュカは笑顔を見せてアスラの頭を撫でた。
「大丈夫だよ、すぐには行かない。ここで少し休んでいこう」
子供たちの手前、少し強がっていたリュカだったが、それが逆に不安を与えたと感じたのか、アスラの横にしゃがみこむと「ふぅ」と溜息をついた。
随分のんびりと休憩をして、五人は地下三階に挑む。
リュカは三階も二階と変わらない魔物たちだと踏んでいたが、思ったとおりで敵の出方を伺いつつ、一点集中で攻撃を仕掛けて、仲間を呼んだり呪文を唱 えさせる前に蹴散らしていく。
石版で隠すレリーフの数は多かったが、それでも二階で苦戦したのとは比べ物にならないくらい効率よく戦闘をこなしていくことが出来た。
そして、レリーフが集まっている場所は、雛壇のような形で台ができていて、立て札に『全て封印せし者にマントを与えん』と書かれていた。ここに四神 が居る事は確かで、この洞窟が四神の企んだことかどうかはわからなかったが、それだけの強者であることがわかると出てくるような仕組みに、立て札の存 在が「胡散臭い」とティラルは毒づいていた。
全てのレリーフを封印すると、立て札にあったようにマントが姿を現す。そして魔物の気配は感じられなかった。目配せをしてリュカはティラルと合図を 取り、そのマントに触れる。と、その時に大きな甲羅がリュカの頭上に迫ってきた。慌ててリュカは飛びのくとその甲羅はもうもうと土煙を上げた。
土煙が晴れるとそこには黒い衣服を纏い複雑に捻じ曲がった剣を持つ一人の男が立っていた。「ようこそ、この洞窟へ。そして、よくここまで辿り着きました。ですが、そんなあなた方もこれで終わりなんですよ。このマントを手にせず、ね」
丁寧だが、無礼な言葉を使う男に、珍しくリュカがカチンと来たようで、冷めた目でその男を見つめていた。
「おいてめぇ、もしお父さんになにかあったらどうするつもりだ!…それとそのマント、素直に渡せ」
カチンと来たのはリュカだけではなかったようで、アスラが天空の剣をその男に突きつけて乱暴な言葉で文句を言い返す。
「文句はいくらでも受け付けますよ、ですが、自己紹介くらいしたらどうですか・・・?ああ、わたくしは・・・えーっと・・・?」
「スェンウだ、馬鹿者!」
余裕を見せていた男だったが、自分の自己紹介となったときに突然、自分の名前を忘れたように首をかしげた。いつの間にか腕を組んで、苛立たしいと 言いたそうに右のまぶたをヒクつかせていたレシフェは思わず怒鳴りつけた。
「そうそう、スェンウと言うんですよ。…ところであなたは?」
スェンウと名乗る男は今度はレシフェに尋ね返す。相変わらずイライラしているレシフェは深く深く溜息をついた。
「・・・・・・イオナズン!!」
ボソッと呟くようにしてレシフェが呪文を唱える。スェンウは突然のイオナズンの爆発に巻き込まれて再び土煙の中に姿を消す。
「一斉に畳み掛けます!!」
背中に背負った天叢雲剣を抜き放つと、率先して土煙の中に突撃していく。その後をアスラが追いかける。
「あの・・・ティラルさん?」
「ああ、スェンウってのはちょっと的の外れたことを言うのが好きでね。いや、それが『素』の状態なんだが…。レシフェが一番苦手としていた相手。そ れを思い出したんじゃないかな」
さすがに何が起こっているのかの説明を求めずに入られなかったリュカはその場に残ったティラルのほうを唖然とした表情で見つめる。その様子にレシ フェとは違って呆れた顔をしてティラルは説明した。
「なるほど。では行きますか」
四神の姿を知るティラルからの説明があり納得したのか、頷いてリュカは言うとアスラたちが消えた土煙の方に剣を構えで突進していく。「やれや れ…」と呟いたティラルは楽しいものを見ているかのように爛々と瞳を輝かせると、サンチョに目配せして、双剣を抜き放って突撃して行った。
「な、なにを突然するんですか!?」
スェンウは慌てて反論するが、自分で作った土煙ではないため、視界を完全に奪われていた。同時に慌ててしまったため相手の気配を探ることに後手に 回ってしまった。だが、瞬間右と左から剣が見えた瞬間、特殊な形状の剣を扱い、余裕を持って薙いで行く。次に予想外に三方向から斬りつけられたがそれ もまた余裕を持って往なしていくと、瞬時に気配を読み、身近に居る相手に向かって強烈な後ろ回し蹴りを放つ。
「ぐぅっ!!」
こちらの剣がまったく通用しなかったのに、スェンウの後ろ回し蹴りは確実にヒットして、一番近くに居たレシフェの腹部にかかとがめり込む。低い声 を出してレシフェの動きが止まる。攻撃の直後と見たアスラはすぐに体制を立て直すと再びスェンウに切りかかっていくが、何度そしてどの方向から斬りつ けていってもその特殊な剣で容易に往なされてしまう。レシフェもすぐにダメージから立ち直って攻撃に移るが、剣での攻撃はなかなかスェンウを射止める ことが出来ない。そこにリュカとティラルも加わり四人で一斉に攻撃を繰り出すがそれでも剣では簡単に往なされていた。そしてスェンウは剣では直接攻撃 に転じることはなく徒手空拳で攻撃してきていた。
それを見ていたリュカは、少し一線から退くと剣を鞘に収めて地面に下ろした。暫くティラルたちの攻撃のパターンとスェンウの攻撃のパターンを見てい たリュカは口元で少しだけ笑ってみせる。「お嬢様・・・?」
少しバテ気味になっていたサンチョが地面に置かれた剣を抱きかかえて、その余裕のあるリュカの口元を見て首を傾げる。リュカはニコニコとした笑顔 でサンチョに微笑みかけると、パチンと頬を両手で叩いて見せた。
「・・・・・・よし!!」
気合を入れるようにしてリュカは一言言うと、今度は剣もない状態でその戦闘に加わって行く。その様子を見て剣を抱きかかえるサンチョはリュカが何 をしようとしているのかがわかった気がした。同時にすぐに参戦できない自分のことを少し恥じたが、バックアップできる体制を整えようと、剣を持ったま ま自分の槍を構えてスェンウに向かって突進して行く。
ティラルたちはそんな状態で参戦してきたリュカを止めようとしたが、リュカはまったく意に反すことなくスェンウに攻撃して行く。一瞬ティラルたちの 手が止まる、それを不思議に感じたスェンウは手近に居たアスラに対して再びハイキックを繰り出す。アスラの右側頭部に激しい打撃が叩き込まれるその直 前、リュカが身体を滑り込ませるとその足を簡単に手で止めてみせる。その止めた瞬間にリュカは左のハイキックをスェンウに繰り出す。何が起こったのは 状況がわからなかったスェンウはリュカのハイキックに容易にはまり、吹っ飛ばされた。「なっ・・・」
吹っ飛ばされたスェンウはまだなにが起こったのか把握できない様子だったが、リュカは攻撃の手を休めずにすぐにスェンウとの間合いを詰めると、倒 れこんでいるスェンウの喉元に容赦なく踵を踏みおろす。それがわかったのか食らう直前でスェンウは身体をひねって逃げ出すと、リュカと対峙するように して構えを取った。
「リュカ!!」
すぐにリュカのところにティラルたちが駆け寄る。スェンウは剣だけでかわし続けることで決着がつくかと想像していただけに、意表を突かれた状態 だった。
「なるほど、拳法が使えるとは驚きですね。わたくしたちのような実戦で拳法を使うような人間は少なかったはずですが、お見事と言って置いてあげま しょう。ですが、なぜ剣が往なされるかまではわからないと言ったご様子」
スェンウがそう言って両手を構えてみせる。リュカもティラルたちを前線から外して同じように構えて見せた。
「理由がわからなくても、攻撃の手段が見つかれば対等に戦闘はできるよ」
リュカはそう呟くと、身体を左右に振るようにしてスェンウの視野内で撹乱するように近づく。身体で前転するように丸め込むとそのまま両足を踏み切 る。踵が弧を描くようにしてスェンウの頭上にくる。スェンウはその技をみて一瞬驚いた様子を見せたが、慌てて防御の姿勢に転じ、リュカの踵を防ぐ。 リュカはそれだけでは止まらず、着地を完了すると、すぐにスェンウの左腕を掴むと、そのまま一本背負いをかける。それもスェンウは残った右腕だけで地 面への激突を避けたが、リュカはその一瞬止まったスェンウの身体を見て、地面から少し上にある頭に容赦なくローキックを蹴り込んでいった。
この瞬間的に繋がった技にスェンウは圧倒されて、最後のローキックはなす術もなくただ食らうだけだった。舌打ちをして今度はスェンウから攻撃を仕掛 けた時、ティラルが剣を構え、リュカはこぶしを構えて駆け込んでくる。瞬間混乱したスェンウは初動が遅れる。ティラルはその瞬間にリュカに剣の一本を 投げ渡すと、リュカはその剣をスェンウの頭上目掛けて振り下ろす。スェンウは無駄だとばかりに剣を構えたが、リュカの攻撃は直接スェンウに下ったもの ではなかったため、往なすことは出来ない。
リュカの一撃はスェンウに纏っていた陰を振り払い、スェンウはその場に倒れこんだ。
数秒してスェンウが慌てて起き上がる。そしてその目の前に居たリュカたちに深々と頭を下げた。「レシフェ様、ティラル様、申し訳ございません。自分で何をしていたかは重々承知しています」
スェンウはそう言って下げた頭を再び上げる。
「…何をしていたかわかっていた?」
今まではクィンロンもバイフーも記憶を失っていると言うのが共通した症状だった。それだけに、スェンウの言うことが信じられなかったティラルは思 わず聞き返していた。
「はい、まず・・・」
そう言って近くにあり、先ほどまで守っていた王者のマントを手にすると、リュカにそれを差し出した。
「このマントは大きめですが、肩にかければ自然と大きさも変わります。リュカ様が装備するのがよろしいかと」
スェンウはそう言ってリュカを正面から見つめて王者のマントを手渡す。
リュカは言われたとおりにそのマントを肩にかけてみる。手に持ったときは肩の部分が必要以上に強調されていて、男性がつけたとしても、相当肩が強調 されるようなものだったが、リュカが自分の肩にそれをかけると、一瞬まばゆい光を放ち、マントは姿を変える。今までもリュカはマントをつけて旅をして いたが、王者のマント自体もそれまでの旅でつけていたマントと同じような形に変わっていた。
その様子を見ていたレシフェはどこか拍子抜けしたような表情をしていた。「ところで、なんでお前はお父さんのことを知ってるんだ?」
マントの変化を見届けた全員が一瞬黙り込んだその時、アスラが不意に話し始める。クィンロンもバイフーも、ティラルはわかったが、転生しているレ シフェとリュカ・アスラを認識することはなかった。
「リュカ様だけではありません、あなたのことも良く存じ上げていますよ、天空の勇者。…名は、えーっと・・・?」
「アスラ、だよ」
「そうでした、アスラ様。わたくしは元々四神の中でも情報収集を、残っている『ジュクェ』と共にしていました。その時のクセが抜けず、この王者のマ ントを欲するものが誰であるかを事前に調べていたのです。…そこで本来のわたくしの記憶も戻ったのですが、取り付いた陰が邪魔をして、結局体は乗っ取 られたままでこうして皆様とお会いすることになってしまったのです」
スェンウはそう言って再び深く頭を下げた。
「なんで王者のマントを横取りしたんだ?」
色々と合点のいかないところがあるのか、ティラルは腕を組んでスェンウに質問する。
「元はレシフェ様が身に付けていたもの。それが間違った者に渡ってしまったら、マント自体がどうなるかわかりません。それを感じてわたくしは譲り受 けようと考えていたのですが・・・」
「結果、強奪になってしまったわけか」
少し困ったような、少しおびえているような態度でスェンウはそう途中まで言うと、レシフェがその後を補足した。
「おっしゃるとおりです、レシフェ様」
申し訳なさそうに呟くスェンウ。それを見て、ぱちんと指を鳴らしたレシフェが思い出したように言った。
「あの剣、なかなか思い出せなかったが、スェンウ自身か」
突然レシフェが言い、周りは一瞬何のことかわからないと言った様子でレシフェを見つめたが、スェンウは頷いて再び特殊な剣を出して見せた。
「これのことですね。ええ、わたくしが神獣の時の尻尾の蛇です。相手の剣に巻きつけたりも出来ます。なので、鍔迫り合いなどには持ち込むことが出来 ません。剣では、わたくしのほうが断然有利ですので」
スェンウはそう言って剣を消す。
「この洞窟は元々あなたが作ったものなの?」
リュカが言うと、ティラルたちもそういえばと言ったように頷いた。
「いえ、元々は別の何かがあったようですが、わたくしが来た時はもう何もなく、ただ魔物がウロウロしているだけの洞窟でした。なので、少し細工をさ せていただいたのです。とは言え、元々はリュカ様を初め皆さんを殺すために居座ったわけではありますが・・・」
少しずつ声のトーンが下がって行くスェンウだった。そんなスェンウにレシフェが声をかけた。
「王者のマントを、陰にさらされながらも守ったのはありがたいことだ。…で、スェンウ、これからは・・・」
「はい、すぐにクィンロンやバイフーに合流いたします。…ゴールドオーブは何とかなりそうでしょうか?」
レシフェが言うとすぐに承知していると言ってスェンウは声を返した。そしてリュカたちが今何を求めて動いているかも承知していると言った風に訊ね てきた。
「正直まだわかりません。ポワン様ともその辺りはまだ話せていないので」
レシフェの声から変わってリュカがスェンウの質問に答えた。
「そうですか。妖精族が再びオーブを創り出せることをお祈りいたします」
そうして話もそこそこにして、リュカたちは封印の洞窟をを後にした。