5.レヌール城 〜お化け退治2〜

 翌日昼間はあまり活動せず、暇があれば眠っていた二人。

「はっくしゅ!!うう、ダンカンに風邪を移されてしまったようだ」

 パパスはどうやら風邪がうつったらしく、一日中くしゃみをしていた。また頭が痛いとも言い、ベッドに横になったままあまり動くことはなかった。ダ ンカンの妻は、そんなパパスには風邪が治るまで居てもらわないとと上機嫌でいた。
 あの、猫のような動物をいじめていた少年二人は昨日と同じく、やはりその動物をいじめて遊んでいた。リュカはその様子を見て「絶対に助けてあげるか らね、猫さん!!」と心に誓っていた。
 その夜、みんなが寝静まった頃にまた、ビアンカはリュカを起こしに来た。リュカも準備万全と、ベッドの中にはいたが全ての装備を整えいつでも出られ る状態にしていた。
 街の外では、昨晩に特訓した成果でビアンカの戦闘要領も良くなってきていたし、それに合わせてリュカも自在に動き敵を翻弄させていた。危なげない戦 闘を繰り返し二人はレヌール城までやってきた。

「ここが、レヌール城…ですか」

 廃墟と言うのが相応しいほど、外壁も城の作りそのものも崩れかけてしまっている。一族が滅んでどのくらい経つのかは二人にはわからなかったが、そ れでも大変な時間が過ぎ去っていることがこの城の様子から窺い知ることが出来た。
 正面にある正門に近づき開けようとしてみたが、ピクリとも動く気配はなかった。

「困ったね、どうしようか…」

 ビアンカがそう呟いたとき、今まで静かだった城の中で優雅な音楽が流れ始める。だが、その優雅な音楽とは裏腹に、騒ぎ声や泣き声が混じって聞こえ ているのをリュカとビアンカは気付いていた。外はポツリポツリと雨が降り出し、雲間からは横に走る稲妻が見て取れた。

「今夜は色々な意味で荒れることを暗示してるみたいね、リュカ」

 ビアンカが少し引きつった笑いを浮かべて、リュカにそう言った。リュカも緊張した身体をほぐそうと両手両足をぶるぶると振っていた。そして、ビア ンカの声に神妙な表情を浮かべ一回だけ、無言で頷いた。
 正面から入れないことがわかり、二人は暫く周りをうろうろとしていた。

「ねぇリュカ、あれって上に伸びる梯子だよね?」

 城の外れの方に上に向かって伸びる梯子が外壁についているのをビアンカが見つける。

「あの梯子がそのまま上に伸びていれば、入れますね?」

 リュカもその存在を確認して、梯子のほうに歩み寄る。錆びれて取れそうな感じもしていたが、握ってみると意外としっかりと外壁についているのがわ かった。二人は顔を見合わせたが、誰もいないはずの城から聞こえる優雅な音楽と、につかわない騒ぎ声や泣き声がするのを放って置けるほど適当な性格を しているわけでもない。それに、あの猫のような動物を助けるためにはこの謎を解かなければ、と、どちらにしても通らなければならない道だった。
 リュカが先陣を切って梯子を上りだす。一気に一番上まで上り、ホッと一息つくリュカ。ビアンカも遅れなくついてきて、リュカと共に一息ついた。

「…非常口、にしてはなんか変な感じね」

 ビアンカはそう言って首をかしげた。二人が上りきったところには、入り口とも取れる壁の大きく開いた場所がある。二人はそこに入ってみた。する と、突然入り口に鉄格子が下りてきて一瞬で周りが真っ暗になった。リュカは視力を奪われた状態になり、無意識に目をぱちくりとさせた。少しずつ、夜の 闇に目が慣れて来ると、その部屋の様子がわかるようになった。

「先に階段があるようです、ビアンカ姉さま」

 リュカが一緒に居るビアンカに話しかけたが、ビアンカからの返答はない。

「姉さま?」

 リュカが不思議に思って振り返ると、後ろにいたはずのビアンカの姿がなくなっていた。

「あ、あれ!?ビアンカ姉さま!?」
 リュカは慌てて鉄格子の方に近寄った。鉄格子が二人を隔ててしまったのかと感じたからだったが、リュカの予想ははずれ鉄格子の外にビアンカの姿はな かった。少しの不安と少しの疑問を抱え、リュカは「んー…」とうなる。だが、実際に考えても、暗転したあの瞬間に何かがあったとしか言いようが無く、 またどこかにビアンカが行ってしまったというのも色々な意味で事実だった。
 悪いほうに考えるのをやめるために、リュカは一旦全ての思考を停止する。そして現状の把握をして、進める道を進むことにした。今進めるのは、前方に ある下りの階段のみ。リュカは暗示に導かれるようにその階段を下っていく。下った先には特に何かがある部屋ではなかった。くるりと辺りを見回すと、少 し離れたところに薄明かりの見える場所がある。リュカはそこに近づく。それは少し歪んだ扉で、外に出られるようだった。歪んだ隙間から外の明かりが差 し込んでいたが、リュカが力を入れなくても、そのドアはすんなりと開いた。

「・・・うーん」

 外に出るとそこは庭園を造ったような場所だったが、一箇所だけ庭園と違う場所がある。花と池の設置された庭園の真ん中には二つの墓があった。

「・・・うーん」

 どこからか聞き覚えのある、うなっている声が聞こえてきていた。リュカは声のするほうに歩み寄る。声はどうもその墓の中から聞こえてきているよう だった。

「…リュカの墓?もう一方は…やっぱり、ビアンカの墓、か」

 そう言ってリュカは、ビアンカの墓と書かれた方の墓を少し動かす。すると、そのまま墓は音なくずれていき、案の定中からはビアンカが姿を現した。

「大丈夫ですか?ビアンカ姉さま」

「…もぅ、もっと早く来なさいよ、リュカ。…真っ暗なままだからどこにいるのか全然検討がつかなかったし…」

 ビアンカが少し頬を膨らませて言う。

「うう、突然人がいなくなる恐怖の方が上ですよぅ」

 リュカも負けじと泣きべそをかいてそう言った。
 どちらかが意図的にしたものではないので、どっちが悪いと追求できず、お互いがお互いを責めるだけでどうにも解決できる問題でもなかったが、ぼやき の一つも言わないと二人とも恐怖に押しつぶされそうな気分だった。

「でも、見つけ出してくれたんだからいいか」

 納得したようにビアンカは言う。その墓から出たときにビアンカは背後に何かの気配を感じた。同時にリュカはビアンカの背後に透けて見える、ある二 人の姿を見て取り一瞬、全身に震えが走る。だが、ビアンカはそんなリュカを見て振り返りなんだか安心しているようだった。

「王様とお后様・・・?」

 ビアンカのその声を聞いて、リュカも「えっ!?」と小さな声を上げた。確かに良く見ると、二人とも紅いローブを纏っていて、どこか上品な雰囲気が 漂っていた。それを確認したリュカも先ほどまで走っていた震えも無くなり、落ち着いた表情を取り戻していた。

「・・・ほう、私たちの姿を見ても逃げ出さないか」

 ポツリと呟くように、王様がそう言う。

「…レヌール城の王様、ですか?」

 リュカはまだ完全に恐怖がなくなったわけではないが、少しだけ震える声で王様に尋ねた。

「ああ、私はこの城の最後の王でエリック、それと妻のソフィアだ」

「初めまして、可愛いお二人さん。…折り入ってお二人にお願いがあるのですが、聞いてもらえますか?」

 エリックと名乗る王様とソフィアと紹介されたお后様は、驚かせないように注意するかのごとく静かな声でリュカとビアンカに話しかけた。

「わたしたちが出来ることならば、させていただきます」

 ビアンカが何か言おうとしたが、ドギマギしながらもリュカの方が早く言葉を発していた。

「ここに来たということは、この城の異常な状態を知ってのことですよね?」

 ソフィアが訊ねると、リュカもビアンカも一回頷く。

「あの、よく言えば晩餐をしているようにも聞こえるのですが…ただ、それって音楽だけですよね。時々泣き声とか騒ぎ声とか聞こえて、単に晩餐と言う わけではないような感じがするんですが…」

 今度はビアンカがソフィアの言葉に返答する。

「うむ、少し前から魔物がこの城に住み着いてしまってな。その魔物たちが面白がって、かつてこの城に仕え亡くなった者たちを起こしては無理矢理に晩 餐を開いているんだよ」

 エリックは手の打ち様が無いと言いたそうに、首を振りながら溜息混じりで言う。

「それで…どうすれば、その人たちは解放されるのですか?」

 リュカが訊くと、エリックはたいまつを一つ取り出しリュカに手渡した。

「かつて謁見の間だった場所に、住み着いた魔物たちのボスがいる。そいつを退治してくれれば、他の魔物たちも逃げ出すだろう。が、一部の部屋に仕掛 けなどを作っていて遠回りなどをしなくてはならない。そのたいまつで暗い部屋などを照らせば、邪魔をしてくる魔物たちも逃げていくだろう。…すまん な、小さな客人。よろしく頼んだぞ」

 エリックはリュカがたいまつを受け取るのを確認して、申し訳なさそうに最後の言葉を呟く。リュカとビアンカはそのたいまつを見て一回頷くと、早速 城の中へと入って行った。
 城内は夜の闇の微かな明かりと、時々ある稲光とで照らされる場所もあるが、エリックの言っていたように真っ暗で右も左もわからない場所もあった。 時々ある稲光で、周りに害にならない魔物が、行く手を邪魔するように居たりもしたが、たいまつの明かりに怯えるのか、照らされるとその姿は一瞬にして 消えた。それでも住み着いた魔物を守るためか、獲物を狩るためか魔物はリュカとビアンカを執拗に狙ってきていた。だが、昨晩に猛特訓してコンビネー ションの確認が取れている二人には、大してレベルの高くない魔物たちの攻撃は脅威にはならなかった。
 迷いながら城の中を彷徨い、ようやく目的の謁見の間にたどり着く。そこには確かに、先ほどまで二人を狙ってきたゴーストやスカルサーペント、お化け キャンドルとは違った雰囲気を持った「親分」とも呼べるゴーストの姿があった。

「…やっと見つけた。あんたがこの城の人たちに悪さしてるのね!?」

 ビアンカはちょっと疲れた顔をしていたが、それでも持ち前の元気さは失ってなかった。その勢いで、その親分ゴーストに迫る。しかし余裕はあるよう で、その親分ゴーストは三流悪役のように手を上げて、配下の魔物を呼び集める。

「こいつらを退治しろ。その後は煮るなり焼くなり好きにしな」

 親分ゴーストの命令で、お化けキャンドルやスカルサーペントと言った先ほど相手をしていた魔物たちがリュカとビアンカに襲い掛かる。
 だが、二人とて予想していなかったわけでもなく、先行でリュカは正面の魔物たちに銅の剣を一閃させる。リュカと背中合わせに、逆を向いたビアンカも 茨のムチを横に凪ぎ、その間に素早く呪文を準備する。
 二人の一閃を掻い潜る魔物が複数。

「・・・バギっ!!」

「・・・メラっ!!」

 しかし、その合間を抜け出した魔物も、二人が次に準備していた呪文の前に膝をつく。だが、その一撃だけで倒されるような魔物ではなく、先に一閃を 食らったものたちから再びリュカとビアンカに襲い掛かる。常にリュカはビアンカの、ビアンカはリュカの背後に気を配り、そうして正面の敵に対峙するよ うに闘っていた。そのため、不意打ちで二人の背中から攻撃を出そうとする魔物は、正面で退治するよりも攻撃はクリーンヒットし、場合によっては会心の 一撃に相当するような、強力な攻撃を食らうことになった。敵からの攻撃と、リュカとビアンカの武器と呪文による攻撃が入り乱れること数分、その場に 立っていたのは、たいして疲れた様子を見せていないリュカとビアンカだった。

「さて、こいつらは片付けた。と、言うことは・・・?」

 ビアンカが茨のムチを構えて、親分ゴーストを睨みつける。

「残るは、あなただけですね」

 リュカも右手に持つ銅の剣の切っ先を親分ゴーストに向けて、構えて見せた。

「どいつもこいつも、役立たずばっかりだな。いいぜ、俺様が相手をしてやろう」

 そう言い終わるが早いか、突然二人を熱波と目の眩むような光が襲い掛かってきた。

「ギラっ!!」

 親分ゴーストはあらかじめ用意していたように、間髪おかずに閃光系呪文であるギラの呪文を唱えてきた。防御に徹することの出来ない二人は、閃光の 前に少しだけ体力を奪われる。だが、それで膝を突いてしまうほどまでは弱ってなく、すぐに戦闘態勢を整えなおしリュカは剣を使った接近戦で、ビアンカ はそのリュカをフォローするように茨のムチとメラの呪文で中距離からの援護をして、親分ゴーストとの戦闘を開始した。
 これまで、二人を襲ってきた魔物たちは、呪文が使えてもメラ止まりのことが多かったが、今は、戦闘対象のパーティ全体に威力のあるギラを使われる。 基本的に距離は関係なく、攻撃対象全体に効果を発するため、前衛と後衛とで多少の差はあるもののほぼ同じ程度のダメージを受ける。今まではリュカが極 力中心に攻撃を出していて、ビアンカに来る攻撃の手もリュカが防いでいたが、こう全体に攻撃されるとビアンカの守りをしている暇がリュカには無い。 リュカが少しずつ焦りと共に、ビアンカの状態の方が気になって攻撃がおろそかになりつつあった。

「リュカっ!!私は大丈夫。こんなときのための薬草だしね、自分の調子は確認してるから、攻撃に集中して!!」

 ビアンカが少し体力的に動きが遅くなってきたかと思い、リュカがホイミを唱えようと手をかざしたときビアンカは言う。大きな戦闘経験が無く、また 全体攻撃に対しても経験の無かったビアンカだったが、それでもこれまでの戦闘の中で自分がどういった役割で動きどこで自分のケアをすれば良いかがわか り始めているようだった。
 リュカはビアンカの言葉に頷くと、すぐさま攻撃に転じる。親分ゴーストは、ギラを使って二人いっぺんに徐々に体力を奪おうと考えていたようだった が、それぞれホイミと薬草とで回復し隙もお互いがカバーする形で動いていて、親分ゴーストはなかなか思う様にことが運ばないことに苛立ちと焦りを感じ ていた。
 リュカはその焦りを感じ取り、一気に畳み掛ける。今までは一閃させていた剣での攻撃を突き刺しに行く形に変え、剣が離れてしまっている瞬間にバギを 放ったり時々自分の回復をするなどと言った、より接近戦・密着戦の形に切り替えた。ビアンカはそれを確認すると、メラでの攻撃と傷つきホイミを唱えよ うとするリュカのそばに割って入り、薬草でリュカを治癒する。親分ゴーストがビアンカに攻撃を加えようとしたときは、瞬時に離れ逆にムチを使って攻撃 を繰り出すといった、補助的な闘い方に切り替える。
 二人は特に話をしていたわけでも、役割を決めていたわけでもなかった。だが、前日に実戦訓練を、そして今日レヌール城に来るまで、来てからの戦闘経 験でコンビネーションが確立されていた。
 この状況には、さすがの親分ゴーストも危機を感じざるを得なかった。リュカはその焦りを見て取ると、最上段に剣を構える。リュカには隙が出来そこに 親分ゴーストが打撃を入れようとするが、リュカは珍しくローキックを繰り出し親分ゴーストの足を止めた。その瞬間、最上段の剣を振り下ろす。

「・・・うわっ!!」

 さすがの親分ゴーストもこれを食らったら終わりとばかりに、観念の声を上げた。だが、リュカは剣が当たる直前で止めていた。

「?」

 恐る恐る親分ゴーストが目を開けると、その鼻先にはリュカの剣の切っ先が迫っていた。

「…懲らしめるのはこのくらいで良いでしょう。まだ、仲間が残っていますね。そいつらと共にすぐにここから出て行きなさい。そうすれば、止めまでは 刺さないで居てあげます」

 リュカは珍しく、鋭い形相を見せて親分ゴーストにそう言う。可愛い少女が逆に、本気で怒っているものほど怖いものは無い。

「ちょっとリュカ。全部片付けちゃえばいいじゃない」

 ビアンカが言うと、リュカは横に首を振った。

「それでもいいですけど、仮に少しでも残るやつらが居たら、また同じ事の繰り返しです。それに、ここにどのくらい残っているかはこいつがわかってい るはずですから、後始末をしてもらいます。それが出来なければ、最期と思ってもらうしかないですけどね」

 リュカの言うのは最もだった。黒幕を叩きのめすだけで、全てが終わるとは限らない。黒幕が操っているだけならばその黒幕をたたいてしまえばそれで 済む話も、今回のような集団だったりすると別の派閥的な存在がまた、同じことを繰り返す可能性が考えられた。いわば見せしめの形で、リュカがこのよう に処分すれば、本当に次こそは無いと周りに知らせることが出来た。

「わ、わかったよ、お嬢ちゃん。そ、それで見逃してくれるんだな…」

「ええ、ただし、一刻の猶予も与えません。今すぐに出て行きなさい」

 親分ゴーストがホッとした声を出すと、リュカはそれまでよりさらにドスの効いた声を出して親分ゴーストに睨みつける。それが単なる脅しでないこと をわからせるためでもあったが、正直なところリュカはこういったいたずらをして別の人間をを困らせる人間や魔物が嫌いだった。今回は完全にリュカの逆 鱗に触れてしまっていたのだった。
 慌てて親分ゴーストはその場から逃げ出すように動き出すと、あちこちに居る伝令役に指示を出し、最後にリュカに一礼すると、その場から姿を消した。

「…リュカ、怒ってるんだね」

 ビアンカがようやくと言った感じで、リュカの機嫌の悪さと後始末を「自分たちがしないように仕向けた」ことに気付いたように呟いた。

「怒ってなんかいませんけど…やり方が汚いです。ほんの少しの力があるってだけで、支配しようなんて」

 下唇をかんでリュカは少し悲しそうに言う。それがエリックやソフィア、城の人々に対しての言葉であることは言わずとも知れていた。ビアンカはそれ 以上、リュカにこのことを話すのをやめようと感じた。

「小さな客人、良くやってくれた。しかも、後始末までやってくれるとは。感謝する」

 謁見の間の入り口、リュカとビアンカの背後から声が聞こえた。
 そこにはエリックがソフィアと共に居て、二人の労をねぎらうように呟いていた。エリックとソフィアはリュカたちに近づくと、そのまま二人を包み込 む。そして、次の瞬間、エリックとソフィアの墓の前に移動していた。

「本当に良くやってくれました。お礼を言わせてもらいますわ」

「いえ、わたしたちはそんな…。抵抗できないのにそれを力で押さえつけるのが気に入らなかったから、あんな形で始末をつけただけです」

 ソフィアが改まって言うと、リュカは首を振り両手を前に出して同じように振って、ソフィアの礼の言葉に否定を示す。

「…だが、こうして二人が退治してくれなければ、いつまでも晩餐は続いたに違いない。形はどうであれ、結果はこれでよかったのだ」

 リュカが納得できないといった様子を見せていることに対して、エリックはそう言って諭した。

「もう、大丈夫ですよね、王様。リュカが全員を連れて出て行くように言いましたし」

 ビアンカは俯いて、リュカに変わってエリックに尋ねる。

「ああ、おかげで静寂を取り戻すことが出来たようだ。心から礼を言わせてもらうよ、小さな客人」

 実際に触れることは出来なかったが、エリックはリュカの肩に両手を置いて感謝の意を表す。リュカもその両肩に暖かいものを感じ、少しだけ表情を緩 めた。

「お礼と言えるほどのものは無いが…これを持って行ってくれないか?」

 エリックが言って取り出したのは、金色に輝く宝玉だった。だが、金貨などの金色とは違い、澄んだ白の中に金色に輝くものがあり、神秘的な色を放っ ていた。

「これは・・・?」

 リュカが不思議そうに訊ねる。

「実際、なんだかはわからんのだが…昔、この城に空から落ちてきたものだ。何かあったらこの宝玉も力を持ったりするのだろうと思っていたが、私たち が死しても何も変わらなかった。私たちはこの状態、持っていても仕方が無い。何かに役立つかもしれない、持って行きなさい」

 エリックはそう言って、リュカの手の上に、その金の宝玉を持たせた。リュカの手に乗った宝玉が少しだけ、光を強くする。

「…なにかあるようだな、お嬢さん。これが何を導くかはわからんが・・・」

「・・・はい、ではこれは頂戴いたします」

 リュカは丁寧にエリックにお辞儀をして、その金の宝玉を受け取った。

「さて、そろそろ時間だ。行こうか、ソフィア」

「ええ。・・・ありがとう、そしてさようなら」

 エリックとソフィアはお互い手を取って、リュカとビアンカに背を向けた。そして、ゆっくりと天に向かって昇って行った。ちょうど、東の空からは太 陽が昇り始めてきたところだった。

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