Route / Mio-01.『姉 妹の絆、復活』
専門学生時代、バリスタの 選手権に出た美緒はそこで見事、新人賞を獲得した。
美緒はさらに自信を付けて 勉強に励み始めたころ。
喫茶店「SAWA」 では、新人賞を獲得したバリスタのコーヒーが飲めると銘打ち、今以上の集客のために美緒を宣伝塔として使うようになる。その喫茶店を負かされていたのが美緒の 姉、都。
美緒は姉のしている、ただ 集客だけを求めるやり方が気に入らず、SAWAで働くのをやめて、 仕入れ部門で何とかアルバイトとして雇ってもらうことになる。
この事件以来、美緒と都は まともに話が出来なくなっていた。どうしても利用された側と利用した側と言う形になり、それが二人の間にヒビを入れていた。
美緒が仕入れの仕事を勝手 にやめて、沢崎家の絡む珈琲会社を飛び出して行った先はブリックモール。自分が色々と提案などをして、独自のブレンドを創りだしてそのコーヒーの扱いまでをレ クチャーをファミーユにしていたのが誰でもない美緒だった。美緒は逃げ出す以外には方法が無かった、と言っても仕方がないくらい、都と会社幹部から監視されて いた状態だった。
だが、何とか「修行」のた めと偽ってファミーユでバリスタとしての仕事をし始めるが、そんな美緒をさらに不幸が襲う。
味覚障害。
末期まで達してしまうと、 何を食べても砂をかじっているようだと形容されるようなほど、味と言う物を失ってしまうのだと言う。
ある日、かすりが悪戯心で ホールのケーキの中にわさびクリームを使ったものを入れてロシアンケーキと言い食べさせ、それにあたったのは美緒だったが…「んー、そんなに辛いかぁ?ちょっ とピリッとはしたけど、食べられないもんじゃないぞ」と言ってたべていた。そのケーキは本来、抜群の破壊力を持っていて、自分で作り確かめたはずのケーキをも う一度、かすり本人が食べて悶絶擦るほどのものが美緒には感じられなくなっていた、それが味覚障害の前触れだった。
幸いにして、味覚障害自体 は進行が遅かったためにまだ普通に味を感じることは出来ると言うのが医師の診断だったが、それまでふるっていた絶妙な味をコントロールするバリスタとしての美 緒の味覚は失われる。
一旦は自暴自棄になったり したこともあったが、ブリックモールのファミーユでそこまでの立派な珈琲を求めている人は少なかった。そんな美緒の味覚自体、ブリックモールで展開されている テナントで提供するようなもの以上の、凄いものを持っていたようだった。回復した現在では、美緒はほんの少しの変化を敏感に感じ取ることは出来なくなったが、 そこを仁が代理として試し、客に提供する、と言う手法を取ることが出来るようになって行った。
「なぁ、じん?一応お姉ちゃ んとは仲直り、と言う感じにはなったと思うんだけと…もっと近くでお姉ちゃんと一緒に居られる方法ってないものかなぁ?」
職場に無事に復帰し、ファ ミーユのバリスタとして再び腕を振るうようになった美緒と仁はいつもその日の売り上げなどの計算を閉店後に二人でやるようになっていた。その作業が終わり、仁 の部屋に入ってから、美緒は仁にそんな話をしていた。
「そうですね・・・美緒さん が・・・」
そこまで仁が言った時、美 緒が凄い怒りの形相で睨みつけてくる。それがどういう意味を持っているのかと言う事をすぐに感じ取ると、泣きつくように仁は美緒に言う。
「ちょ、ちょっとまってよ、 美緒。俺だって注意はしているんだって。だけどもう数年にわたって美緒さんと呼び続けてた来たんだ、そう簡単に美緒って呼べるわけないだろ?こうやって対等に 話すのにだって抵抗はあるんだからさ」
美緒が仁に、付き合ってい くうえで出した条件。それはお互いに名前で呼び合う事。だが、仁に限って言えばそれは、今まで取引先の営業さんとして接していた「美緒さん」のことを「美緒」 呼ぶことになるわけで、そう簡単に美緒と呼べるようになるはずはなかった。仁がつい、「美緒さん」と口走るたびに美緒は仁を睨みつけて威嚇する。仁の方もわざ としているわけではないので、謝るとしてもそれはそれで何かが違う。だが、実際にペナルティを受けるのは仁の方で、いつも美緒には睨まれる結果しか出てこな かった。
「・・・で、都さんと一緒に 居る方法ですか?…いや、その」
ついつい普通にしゃべる と、美緒に対しては言葉が変わってしまう。この先どうやって言葉のくせ、呼び方の癖を付けていったらいいかと仁は悩む。
「ま、いいよ。そのうち、自 然とあたしのことを『美緒』って呼んでくれれば。で、そのそれ、お姉ちゃんとは結局離れちゃったけど…お姉ちゃんだって、ファミーユで働くってこともできない わけじゃないんだろ?」
ベッドの上にゴロンと転が り込んで、天井を見上げながら美緒は仁にそんな質問をしてくる。
今、美緒の姉、都は都会の 喧騒から離れて、長野南部に引っ越していた。美緒としてはそうして離れて暮らすのがちょっと残念な気がして仕方がなかった。
「んー、だけど厨房に入って もらうのは厳しいよ?美緒の考えていることは何となくわかるけど…まずコーヒー、飲料で美緒が、反対側は当日の売れ行きによって姉さんとかすりさんが動き回っ ているし、その合間を縫って俺がランチ用にオムライス作ったりしているんだから」
仁がそう言うと、美緒は何 となく心此処に在らず的な溜息をつく。
「仮に、ファミーユ本店が完 全に営業できるようになったら、その時は呼んでも問題ないと思うけどね」
そう言って仁は美緒の溜息 の原因を取り除こうとするが、完全に取り除くのはなかなか難しい。
「まぁ…ブリックモールじゃ 多少手狭な分部もあるかなぁ、それにテナントの一店舗として借りている状態、あれこれ注文付ければ追い出されかねない」
何となく美緒はそう言って 現状の問題などを洗い出していく。どちらにしても、ファミーユブリックモール店では、なかなか都が腕を振るえる場所、と言うには厨房の方が厳しい状態だった。
「美緒、ずっと一緒って訳に は行かないけど、月一回くらいは都さんのところに遊びに行くって言うのは問題ないんじゃないかな?」
「…ブリックモールの店休日 は水曜日。お姉ちゃんは今はOLだから土日が休日。どうやって会 えって言うんだよ」
仁は会うことは問題ないの ではないかと言う提案を出してみる。が、美緒はお互いの仕事事情のことを前に出して、「会えるはずがないだろう」と言いたげなぶっきらぼうな言い方で仁に返 す。
「…別に俺たちが動かなくっ たっていいんだよ。都さんにブリックモールに来てもらって、その晩は俺は入るにせよ、入らないにせよ、食事して、沢崎珈琲の関連で泊まるところはあるだろう? そう言うところに二人で泊まったっていいんだし」
仁がそう言うと、美緒はガ バッと起き上って、仁を見つめる。
「な・・・なに?」
「それ、いいアイディアじゃ んか。一晩…じんとは離れるけど、お姉ちゃんが今は一番大切な家族だからな。その程度の外出ならばじんも変なことはしないだろうしな」
美緒は盲点だったと言うよ うな、少々興奮気味で仁にその案に乗ることにする。美緒は早速、都に連絡を入れて、事情を話して、美緒たちの街に出てくるようにと話をする。
「早速、この週末に来てくれ るってさ。話をしたいこともあるから、ちょうどよかったんだ。…でも、お姉ちゃんも向こうの方からこっちに通院だけで出てくるのは大変だと思うんだけどなー」
浮かれた気分で美緒が言 う。今、都は美緒と同じ病院で味覚障害の治療をしていた。その度に長野の方からこちらの街までやってくることになるのだ。それが大変ではないと言うのは、例え 本人がそう言っても、それなりに大変なことだろうと、美緒は感じていた。
「ともかく、今週末はお姉 ちゃんと一緒になるけど…じん、お前も一緒に来てくれよ」
「え!?俺 が?なんで?」
「お姉ちゃんとは最後こそ、 じんにあたしを頼むと言っていたけど、その大半はお姉ちゃんとは喧嘩ばっかりしていただろう?お姉ちゃんはじんのいいところと言うか、どういう青年であるかぐ らいのことはもう感じ取ってはいると思うけど、じんはケンカ別れしたような感じだろ?」
美緒が言う。それは仁に とっては図星だった。最後の印象が強く残っているので、悪い人でもないし、どれだけ美緒のことを気にかけているのかと言う事もよくわかっているつもりではあっ た。だが、確かに美緒の言うように、喧嘩別れをした感は否めなかった。
「あたしとお姉ちゃんはビジ ネスホテルでも取って、そっちで寝るけど、夜はちょっとお酒も…いいよな?」
美緒はもう、うきうきして たまらないと言う感じで仁に言ってくる。
「お酒はあまり良い訳ではな いんですけどね、美緒さんも都さんも」
仁は敢えてここは「美緒さ ん」と呼んで、それを制するような言い方をした。だが、美緒はそれでももう、最愛の姉に会えることで舞い上がってしまっているのは間違いのない事実だった。
「…呑みすぎて、いつかのよ うに急性アル中なんてことにならない程度ですよ?」
「わかってるって。…とくに 酒豪って訳でもないから、居酒屋でちょっと呑んで、あとはお茶とか呑んでるから大丈夫」
仁の制する言葉をどこまで 理解したか、仁自身が少し不安になってきたが、それでも美緒が楽しい時間を過ごせるのであれば、それでいいか、とも感じる仁だった。
To Be Continued...
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