Route / Asuka-01.『未 来に向かっての準備』
12/25明 日香は思い切って、自分の上司(店長)で、 家庭教師も兼任してくれていた仁に告白する。そして二人は晴れて恋人同士となる。だが、その月の壁は高く厚かった。それまで、なにかと言うと、イチャイチャし たり、男女の関係も持ったりしていたが、明日香は現在高校二年生、来年には受験が控えていた。明日香の志望校は仁と同じ八橋大学経済学部、難関中の難関でもあ る学部だった。
家庭教師を引き受けていた 仁だったが、恋人同士になってからと言うもの、勉強に身の入らない日が少しずつ出て来ていた。もちろんそれは成績にも見られて、今まで確実にトップを突き進ん でいた明日香が順位を落とすと言ったことにもなってしまう。
「このままだと、明日香の両 親に対して、自分がある程度勉強が出来ることを認めてもらい、人間性に於いても認めてもらっているのに申し訳が立たない」
明日香が二年から三年に進 級する時、春休みを利用して、仁は明日香を八橋大に連れてくる。キャンパスではすでに、入学の決まった学生を狙ってのサークル勧誘が始まっていて、明日香もそ れに巻き込まれそうになるが、その辺りは仁がしっかりとフォローをしていた。そして、八橋大がどんなところかを明日香に見せたところで、現在の成績では八橋大 を受けてもとても合格できる状態には無いと断言する。明日香は自分でもその状況を理解していて、それでも、何が何でも、仁の居る大学に入学したい、そう泣きな がら仁に縋り付く。
もちろん仁にも、考えは あった。だが、恋人同士にはとても過酷な試練でもあった。
仁の家庭教師は明日香の 家、明日香の部屋で勤める。
仁と明日香の二人っきりに なっても、恋人同士のような振る舞いは決してしない。
二人で遊びに行くことも自 粛する。
などと言った項目をだす。 そして、仁にも、明日香にもきつい決断、『喫茶店ファミーユでのバイトの解雇』を仁は明日香に突きつける。だが、その位の事をしなくては、例え成績が落ちてい なくても、受かるような学部ではないことを仁は理解させようとしていた。明日香は大粒の涙を流しながら、しかし仁の提案のすべてを飲み込む。
ここから、仁と明日香の受 験戦争が始まっていくことになった。
後日になって、仁は明日香 と一緒に明日香の両親にバイトの解雇の件を伝え、その分、家庭教師として明日香の部屋に上がり込む回数が増えることも報告した。
明日香はもう、八橋大学経 済学部を目指すと言う事は決まったことなので、両親には報告をしてあった。だが、改めて学校名と学部を確認すると、明日香の両親は必ずしもそんにな高い場所を 目指さなくても…と言った言葉を明日香に掛ける。だが、明日香は「学力だけでいいのならば、帝王大に受かるくらいの学力を取り戻す」と勢いがついていた。
かくして始まった明日香の 勉強漬けの日々だったが、意外と二人きりでいてもそわそわしたりすることなく、明日香の勉強ははかどった。高校二年三学期の成績は、二年一学期の成績と寸分違 わぬと言う程にまで回復していて、この調子で行けば、三年末には本気で帝王大をクリアするのではないかと仁は驚きを隠せなかった。
帝王大、このあたりでは有 名な私立の大学だが、その偏差値についてはどの学校をも凌ぐほどに高い学校として有名だった。有名国公立大学の首席でも、下手をすれば不合格になってしまうほ どの学力が必要で、帝王大に受かればその先は色々な方面で成功は確実とまで言わせてしまう学校だった。一方の八橋大も大学名、偏差値の高さではやはり有名大を 凌ぐくらいに偏差値は高く、中でも経済学部については八橋大の各部を抜いて高い偏差値で、帝王大合格者位の成績でないと経済学部には入学できない、とまで言わ れていた。仁に於いては、どれもが平均点と言う状況であったが、それでも八橋大経済学部に籍を置くのだから、家庭教師などのバイトについてもそつなくこなすこ とが出来る。普段はなかなかその学力を発揮していないと言うだけで、その気になれば、学部内でも上の中くらいまでは登りつめることができるはずだった。
「はい、明日香ちゃんお疲 れ〜、今日はここまで」
「えっ・・・あ、そか。時間 か」
問題集に夢中になってい て、現在時刻が何時であるかもわからないくらいの集中力で八橋大用の予測問題集をしていた明日香が、少し残念そうにつぶやく。
「…今のままだと帝王大、受 かるかも知れないな」
仁は明日香がさっきまで 闘っていた問題集と、その回答を答えたノートとを比較しながら言う。
「だけど、行くのは八橋大だ よ?せんせの後輩になるんだもん」
明日香が何気なく言った が、こういった会話までを奪い、明日香に勉強を強要している仁は少し胸が痛む気がした。
「…今度、ここまで頑張った ご褒美にどこか遊びに行くか」
何気なく言った言葉だった が、明日香はその言葉に複雑そうな表情で仁を見ていた。
「ん?」
「…もし、せんせがその遊び に行く時間が取れるならば、その分、勉強にかけたい・・・」
始めのうち、せっかく恋人 同士になれて、色々な攻撃を仕掛けてきた明日香が、今は勉強の事ばかり気になっているようだった。
「んー、少しは気分転換する のも必要だよ?明日香ちゃん」
「それはわかってるけど、ま だ不安なんだよぉ。八橋大にちゃんと受かるかどうか…」
明日香自身、手ごたえは感 じていた。何より八橋大用の問題集でも少し考えれば解けてしまうのだから。しかし、それでも明日香はいざ本番となった時の特殊な空気に飲まれやしないかと不安 が先走っていて、少しでも確実性を身につけたいと感じていたのだ。
「まぁ、明日香ちゃんがそう 言うならば俺は明日香ちゃんの勉強には付き合うけど…あまりに勉強の虫になっても、それはそれだし…」
「せんせ!!一 つ希望があるの…八橋代の問題集はまだまだ先も長いけど…帝王大の問題集も手を付けてみたい気はするんだよね。…で、出来たら、最悪の場合を考えて、帝王大も 受けてみたい、って思ってる」
仁が明日香の少し異常な勉 強の仕方に対して、なんとか気分転換をさせようと考えたりもしていたが、明日香からの申告で八橋大だけではなく、帝王大まで受験すると言い出した。さすがの仁 も少しお灸のすえ方を間違えたかと思ったが、明日香のその目は真剣そのもので、自分自身と闘っているような感じに見えた。
「帝王大かぁ。…実力を見る と言う点ではいいかも知れないけど…体調をすぐしたりしたら、すぐに帝王大の問題集は没収するよ?あくまで八橋大経済学部に対する受験勉強なんだから」
今の仁が、明日香の勉強の 進ませ方を止めるには、こんな方法しかない。明日香の勉強の仕方を見聞きしていると、どうも仁が帰った後も勉強していて、今までの睡眠時間を削ってでも勉強を するような状態にまでなっていると言う事だった。そんなことを続けていては確実に体力も知識も欠けて行くことは目に見えている。それを自在に操る必要があるの が仁の役割だったが、今の明日香は半分以上、コントロールを失っている部分があった。
それを見透かしてか、明日 香が久しぶりに見た小悪魔的な笑みを浮かべて仁に言う。
「…せんせはそろそろ我慢の 限界?」
明日香にそう言われて一瞬 戸惑う仕草を見せたりもしたが、仁は慌てて取り繕うと、明日香に反論する。
「そんな煩悩だらけな家庭教 師ではありません。それに自分への戒めと言う意味もあって、この受験勉強期間は恋人同士と言うようなことはしないと言う事になっているんだからね。…それと も、明日香ちゃんが限界だったりするのかな?」
仁が少しだけ余裕を見せる 形で明日香に訊くと、明日香は眼を真ん丸にしてびっくりした顔をすると、慌てて首を左右に振る。
「…大丈夫だよ、明日香。俺 がここにいると言う事は、少なくとも明日香以外に誰かが陰にいると言う事はない証明でもあるんだから。ここのところは毎日会ってるじゃん、明日香自身が証明だ よ」
仁は余裕たっぷりに、明日 香に対して説明してみせる。すると、頬を赤らめて明日香が言う。
「ちょっと…ほんのちょっと だけでいいから…ご褒美が欲しい…な」
その辺りは耳年増と言われ る明日香。仁が断れないような、見上げる視線で呟いた。それを見て、声も出なくなる仁だったが、まだ明日香自身が小悪魔性も失わないで、だが、それを封印して の勉強に取り組むと言う約束を実行していることも証明された瞬間だった。
仁は何とも言えない小悪魔 な明日香を見て、どうにもできない自分にもどかしさを感じたが、けなげに八橋大経済学部に入学して、二年だけでも先輩と後輩と言う立ち位置に憧れる明日香に何 もしないと言う程、仁もその辺りは正常だった。
ただ、言い出したのは仁の 方。仕方がないな、そんなことを口の中でつぶやきながら、明日香にそっと唇を重ねると、わずかの数秒だけ口づけをした。
「あっ・・・」
「基本、キスだって禁止にし たいくらいなんだし、ご褒美なんだから、そんなに貪欲にならない。…全くなし、と言うのは少しだけゆるくするけど、それでも普段は今まで通り。いいね?」
「せんせはそれで持つの?」
「持たないから時々はしてあ げると言ってるんだろう。わざわざ俺の口から言わせんなって」
小悪魔明日香は健在で、 しっかりと要点をおさえいて弱みを突いてくる。それは既に十分に承知していたはずだった仁は結局明日香に白状させられた。その仁を見て、明日香は手を合わせて 口元を隠すようなしぐさをしながら、だが、クスッと笑った声だけは仁に聞こえるような笑みを浮かべた。「やられた」と仁は明日香のその笑みを見て頭を抱える。
「せんせもおんなじ気持ちで よかった。私だけがおかしくなっちゃったのかと思ったよ」
「…勉強にこれだけ取り組ん でる明日香ちゃん自身がどうにかなっちゃったのかと俺は思ったよ」
お互いが、自分のちょっと した変化の部分について、なにかの考え方が変わってしまったのかと思っていたようで、明日香は行動でそれの確認を、仁はそれに応えることでお互いの確認をする ことになった。
だが、お互いが勉強によっ て離れそうになってしまう、そう言った状況はこれからもないと考えることのできる、お互いの行動での確認。それで一安心したのか、明日香は久しぶりに満面の笑 顔で仁に向けて笑ってい居た。仁もそれにつられる様に笑顔を見せていた。
To Be Continued...
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