エピローグ

 マスタードラゴンによって魔界を脱出したリュカたちは、まずマスタードラゴンの居城、天空城へとやってきた。

「リュカ、そしてその一族。そしてティラル。このたびの働きに感謝する」

 そう言ってマスタードラゴンは頭を下げた。

「我のことについては大変な迷惑をかけたな。リュカたちがドラゴンオーブを持ち出せなければ、我も弱き人間のままであった。…このたびのミルドラー スとゲマのことについてはお前たちと仲間たちの働きがなくば解決は見られなかったことでもある」

 神妙な声でマスタードラゴンはそう言った。

「しかし、ゲマは何がしたかったんだろう・・・?最終的にはミルドラースの物を奪って自分が君臨するつもりではあったみたいだけど…同じことをして ぼくたちに勝てると思っていたんでしょうか?」

 首を傾げ、今まで疑問に思っていたことをアスラはマスタードラゴンに訊ねる。
 マスタードラゴンもそのあたりはよくわからないと言った様子で黙り込む。

「でも、マスタードラゴン様の神罰がなければ、あそこまで簡単にゲマに打ち勝つことは出来なかったかもしれません」

 アスラの頭を軽くなでながら、リュカが言葉を続けた。

「そうだ。よく魔界にまで入り込めましたね、マスタードラゴン」

 思い出したようにつぶやいたシルフィスが具現化して姿を現した。

「魔界自体を取り巻いていたのはミルドラースの気だったからな。ゲマは単独では強かったのだろうが、魔界を取り巻くものはなくなっていたからな。容 易にゲマの場所まで辿り着けた」

 少しばかばかしいと言いたそうな、ゲマへの嘲笑を含みマスタードラゴンはシルフィスに説明する。

「さて、リュカよ。今回の功績を認めて、何か願いがあれば聞いておくぞ」

 しばし間を置いて、マスタードラゴンはそう言う。
 リュカはその言葉に寂しそうな表情を浮かべて、可能かどうかを探るようにマスタードラゴンに話始める。

「魔界でわたしたちの身代わりとばかりに亡くなった、魔物の仲間たちを取り戻すことは出来ませんか?それと…ミルドラース亡き今、魔界も混乱が考え られます。母様が導いたジャハンナの人たちをこの地上に連れてくることは叶いませんでしょうか?」

 神妙な面持ちでリュカは訊ねる。
 マスタードラゴンはその願いに対して、特に可否を告げずに瞑想をし始める。
 しばらくその状態が続き、マスタードラゴンは目を開けた。

「仲間は全員、天空城の外で待っておる。ジャハンナの者たちについては、テルパドールの北東にある無人島に街ごと移動した」

「本当ですか!?ありがとうございます」

 マスタードラゴンの計らいにより命が救われたジャハンナの住人と、今までの仲間を取り戻したリュカはうれしそうにマスタードラゴンに礼を告げる。

「ではグランバニアまで送ろうか」

 マスタードラゴンはそう言うと、リュカたちを外に出るように促す。
 その天空城の外にはピエールやリンクスと言った仲間たちがマスターであるリュカの登場をいまや遅しと待ってい居た。

「・・・!!リンクス!ピエール!!みんなもよかった」

 外に出たリュカはリンクスたちの姿を確認すると、駆け出してリンクスに飛びついた。

「リュカ様。見事ミルドラースを打ち砕いていただいたのですな」

「ああ、何とか…みんなのおかげで気付くことが出来たんだ。ありがとう」

 ピエールがそう言うとリュカは礼を告げる。

「みんなとこれからは旅には出られないかも知れないけど・・・」

「心配ご無用です、リュカ様。ジャハンナがこの地上に出現したことも知っています。我らはそこで、人間となれる日を夢見て過ごすことといたします」

 リュカが申し訳なさそうに言うと、ピエールは慌ててそのことについて説明する。
 仲間たちはそうして、早々にジャハンナへと旅立った。


「さて、リュカ。あたしはこのままシルフィスとしばらく天空城に残るよ。…小さなときからの旅だったけど、よく頑張ったね。パパス殿もマーサ殿も喜ん でいると思うよ」

 ティラルはそう言って、リュカの苦労を労った。

「ティラルさん、いろいろな場面で助けていただき、ありがとうございました。こうして元の姿にも戻れ、無事に母様と会うこともできました。…一つだ け、母様を連れ戻すことは叶いませんでしたけど…」

 心残りと言いたそうにリュカは寂しそうな顔を見せる。

「でも、お祖母様も満足しているんじゃないかな?」

 リュカの表情を見てレシフェが言った。

「そうだよ、それにおばあちゃんはちゃんと、おじいちゃんが守ってくれているはずだからね。お父さんもお母さんもこれからはぼくたちと全力で相手し てよね」

 レシフェの言葉を聞いて、アスラもそう言う。

「わかっているわ。特に私はリュカとも、あなたたちとも離れてしまったからね」

 アスラの言葉にビアンカはそう告げる。

「ティラルさん、わたしたちはグランバニアに居ます。シルフィスさんといつでも訪ねてきてください」

 リュカはそう言うと、ティラルと固く握手を交わした。
 そして、リュカはグランバニアに向けてルーラを唱えた。


 それからグランバニアでは、天空の勇者の血と竜の女王の血を絶やすことなく残すことになる。
 ミルドラースの存在自体は大きく表に出されなかったが、かえってそれはよかったのかもしれない。
 リュカ〜姫王〜はその後、オジロンの意見役となり、その後アスラが王位についたときにも強大な力を示したりはせず、あくまで影の役として政に参加し たという。

 姫王の旅のすべてはティラルの手により、文章として天空城の書物庫に今も保管されている。

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