Angel’s Whispers  -天使のささやき- SECONDRY WORKS


 『電影少女 -Video Girl AI 2018-』 After Story Vol.2


「なぁ、智章、今日って放課後暇か?…できたら、アイの為でなく、アニ研としてまたアニメを作ってコンクールに出したいんだ。今度は外部…プロデューサーとか、音楽家とか入れずに、一から四人で作ったアニメを。そのためにちょっと話し合いがしたくてさ」

 翔が登校して、一番初めに探した姿は智章だった。突然、翔からこんな話を持ち出されて、智章は突然のことで迷ってはいた。

「…完全にオリジナルの短編となると、それこそ外部じゃないが、翔のおじさんの作るような絵本レベルの短編、中身の濃いものにしないといけないぞ?」

 智章はそう言って、しかし、翔のやる気を確かめるように一言ずつ話をする。だが、翔は智章の言葉も承知の上で言っているだけの熱意があることを伝える。

「もちろん。だけど、例えばあの「オレ」の出てくるような話を一から練り返して、もっと見られるものにしていくところから、プロトタイプづくり、本編と作っていってもいいし、とにかく、俺たちのできることをしたいと思うんだ」

「…翔、もしかして、進路とかはアニメ業界の方に進もうなんて考えてるのか?」

 翔があまりに熱く語ってくるので、智章はその翔の様子と、今後の進路のことをオーバーラップするかのように質問を投げかける。

「…どうだろうな、進路になるかどうかはわからないけど…もし、進路にするならあの、清水ってプロデューサーと真正面からぶつかって行きたい機雷の気概はあるよ」

 翔はそんなことを智章に話した。


「柴原は今日の放課後とか・・・」

「それ、さっき智章から聞いた。…本気でまたアニメを作るの?」

 奈々美が少し驚いたように翔に言う。だが、頑として揺るがない気持ちを表すようにして、首を一回縦に振る。

「…それに、『四人で』って言ったって聞いたけど、リカちゃんまで巻き込もうって魂胆なの?」

「リカちゃんいないと音楽が成り立たないからなぁ」

 奈々美が色々と心配していたが翔はあまり現実的に無理そうな部分は無いとでも言いたそうに奈々美に話をぶつけてきていた。

「…ま、時間はあるけど、リカちゃんは向こうの高校の部活・・・」

「帰宅部なんだそうだよ。で、アニメの話をしたら、稚拙な音楽しか作れないけど、バンド時代の気持ちを思い出して、やってみたい。って快く承諾してもらってるよ」

 奈々美が懸念したことはすでにチェック済みで、リカが音楽担当で短編アニメを作ると言うことについては、例えコンクールに落選しようとも、作ったことに意義がある、とまで言って、参加を承諾してくれていた。

「…弄内君、なにか考えてるでしょう?」

「ま、それは隠す気はない。考えてるよ」

 奈々美が突き詰めてみるつもりで質問を投げると、翔は簡単にその「何か」をあっさりと認めた。


 かくして、リカを組む智章、奈々美は翔の自宅に集まる。

 そして、早速翔はラフスケッチだけは勝手に作ったと言うことで、次のアニメに出てくるような、だが、例えばアイとか、例えば奈々美とか、そう言ったモチーフは一切なく、あくまでオリジナルであるように、コミックちっくな可愛い主人公(に、なるであろう)ラフスケッチを見せた。そこから、智章主導でそのラフからそれぞれが何を思い浮かべて、どんな展開にしていくのがいいのか、など、色々と意見の出し合いをしていく。

 話も色々な意見が出て、翔が用意した大きめのスケッチブックには、そのアニメの構想としてのキーワードがたくさん出てくる形となった。


「はいは~い、真剣なのも良いけど、少しぐらいは息抜きしようぜ~」


 それはあまりに唐突でいきなり過ぎた。

 智章、奈々美、リカの三人にも見覚えのある、山吹色に近い色の服にコルセットのような帯をまいて、首には独特のデザインの肩掛けをしている姿が写り込む。

 その服を見て、三人は一斉にその人物の姿を見直す。そこには散々、この三人を引っ掻き回した、事件の張本人である「天野アイ」がいた。

「アイちゃん!!

 三人はそろえてアイの名前を呼ぶ。

「…消 えるはずだったんだけど、オレ、こっちの世界に来た時から不良品だったこと忘れてて。ビデオの世界に戻れなくなっちゃって。…散々なことをしておいてごめ ん。特に奈々美ちゃん、また自分のことだけど、それでも翔と一緒に居たい。今は心の底からそう思う。…ビデオガールとしての欠陥は出てくるかもしれないけ ど、それでも翔と一緒に居たいんだ」

 アイ が自分の思いのたけ、そして奈々美と喧嘩をした事を直接話す。三人はあっけに取られて、そこにアイがいる事すら現実と思えないような表情でアイを見つめて いたが、奈々美はスッと立ち上がると、いきなり強烈なビンタをアイに喰らわせる。だが、次の瞬間、多分翔が抱きしめるよりも優しく、歓迎するようにアイを 抱きしめる。

「ほんとに、自分勝手で自分のことしか考えないんだから…そんなところが嫌いで…その強い思いを貫くためにまた戻ってくるだけのことをして見せたアイちゃんが好きだよ。ようこそ、この世界へ」

 奈々美はそこにアイがいるのを確認できた瞬間に、以前喧嘩したことの決着ではないが、けじめをつけようとビンタをするが、その顔はすでに涙にぬれて、アイを抱きしめていた時はアイの肩に顔をうずめてうれし泣きをしていた。

 智章は笑顔で、リカは複雑だがでも笑顔で涙を流しながら、奈々美とアイがお互い抱きしめあって今、この場にちゃんとお互いが存在していることを確認していた。


「…弄内先輩、半分は本当にアニメの話だったんでしょうけど、本当の目的はアイちゃんが戻ってきたことをただストレートに言っても、逆に私たちがどんな反応するか怖くて、全員集めたんじゃないですか?」

 リカがアイと奈々美を見ている翔に、今日の集まりの話をする。図星の翔だったが、別に今更隠す必要もない。

「そう だよ、特に柴原とアイは喧嘩して険悪感があるような話を聞いていたから、それをいざとなったら止められるような『仲間』が、暖かく迎え入れてくれる『仲 間』がいることをアイに一番に知ってほしかったし、柴原の行動は想像のまんま、だからあまり心配はしてなかったんだ」

「もう、弄内君も自分ことばっかりで考えるんだ。…アイちゃんと一緒…だから・・・」

 奈々美は最後の方でポツリと、アイの耳元でアイにしか聞こえないような小声で「だから、そういうとこ好きなんだよな」とまるで、アイに宣戦布告を擦るような感じだった。最も、翔がアイに傾倒している状態で、勝負もなにもあったものではないわけだが。

「んじゃあ、その奇抜な再会劇を取り繕ったアイちゃんも含めて、五人で次のアニメ、作ろうぜ」

 智章が嬉しそうな笑顔を見せながら再びスケッチブックをテーブルの真ん中に置いて、今度はアイもその輪の中に入って、アイの持ってきた飲み物を飲みながら、五人でアニメのプランを作り始める。