Angel's Whispers ~天使のささやき~ Secondary Works

 『ここはグリーンウッド』 After Story Vol.2

 蓮川一也の生活している緑林寮。通称グリーンウッド。全国名中学から、好成績を収めた人間が推薦されてやってくるか、はたまた地元の中学で好成績ながら、通常試験をうけ、合格した者が通う、周囲ではハードルの高い進学校。

 そんな緑林寮は、私立緑都学園に 付属した、主に地方出身者の津同僚でもあった。だが、地元でもあるにも関わらずあえて緑林寮に入寮してくる生徒もいる。顕著なのが、緑都学園のある最寄り 駅から一駅先に自宅のある「池田光流」とほぼ地元にも近く、駅も数駅しか離れていない「蓮川一也」だった。



 最近になって、一也には彼女がで きた。緑林寮からそんなに離れていない、一路線乗り換えるだけでその彼女の通う学校に在学している「五十嵐巳夜」だった。もともとは学校での素行が原因 で、他校の不良グループに目を付けられるほどだった巳夜だったが、ある事件をきっかけに、こうせいするようになった。

 発端は他校五人の不良グループに 巳夜一人が呼び出されたことから始まる。もともと巳夜の通う学校は、お嬢様学校で、そんな不良と呼ばれるような生徒はそうそう存在していなかったが、態度 があまりよくない生徒として目をつけられている中に巳夜がいた。相手が五人に対し、巳夜一人と言うのはバツが悪い。地の利を生かして緑林寮まで逃げ込んだ 巳夜は、中学の先輩であった光流のところに逃げ込んだ。当時、寮長をしていた一也は女人禁制でもあった緑林寮に巳夜が逃げ込んだことを迷惑に思っていた が、光流から事情を聴き、状況が許す限りで、光流と手助けすることになった。

 再び巳夜が呼び出された夜。光流 はこっそりと寮を抜け出したが、それは一也にはばれていて、やむを得ず、二人で巳夜の火星に乗り出した。だが、向こうは女子五人に対し、巳夜側は巳夜と光 流、一也の三人。しかも男が二人混ざっていることに相手は単なる怒りが爆発した。そんな時だった。

「遅くなったな、五十嵐!!加勢に来たぜ!!!!

 光流と一也には、その声が女っぽ くも一也の同室で生活をしている「如月瞬」であることが分かった。三人が慌てて振り返ると、そこには百人前後の人影があった。…光流と一也はすぐに気づい たことだったが、それは 緑林寮で生活している寮生たちほぼ全員だった。さすがのこの人数に相手の女子五人は逃げ出し、光流は巳夜に「しばらくは五十嵐巳 夜に手出しをするような不良連中はいなくなるだろう」と言って、寮の人間を手配してきた瞬と、光流と同室の「手塚忍」に礼を言いつつ、二人に「もと頭を使 え」とばかりに指をさされて、反省したような態度を光流と一也は取った。

 こんな事件で、一也と巳夜はお互いが気になるようになり、(実際は一也の一目惚れもあったが)紆 余曲折を経て、二人は付き合うようになった。一也は巳夜の素行なども気になっていたし、実際はか弱い女の子であるにも関わらず、理由があって素行不良な態 度をとっていたのが気になっていたし、巳夜は一也と一緒にいることで、自分があまり飾らなくても素行を悪くしなくても、一也が注意してくれるし、「もっと ちゃんとした人間になりたくて」と告白した巳夜に、一也が「大丈夫、俺がついてるよ」と言ったことで、巳夜は一也に対して全幅の信頼を置いても問題ないこ とが分かったのが、二人が付き合う形を手助けしていた。

 そんな一也と巳夜の初デートは、 緑林寮とも巳夜の学校とも離れた場所で、ファミレスでお茶とスイーツなどを頼みながらのお互いの付き合っていく形を模索していた。巳夜の言う「ちゃんとし た人間」と言うのにも疑問はあったし、一也は「俺がついてる」と言った手前、巳夜に対してはいつでも自分の存在を忘れず、何かあったら頼ってきてほしい、 そのことをお互いが確認しあった会でもあった。



「で、スカ。ほんの数回デートしただけで全部分かったなんてこといわんよな?」

 中学校時代の巳夜を知っている光流は、巳夜が実はいつも幼馴染の「小泉典馬」につかず離れずだったことを知っているので、突然一也を頼ると言い出したのを聞き、正直、ハトが豆鉄砲を食らったかのように驚いている一人だった。

「そんなことするはずないじゃないですか。俺か五十嵐か、用事がなければ週末、土曜か日曜のどっちか、もしくは両日、会う約束はしていますし、電話番号は交換済みです。…寮では携帯使用不可ですし、五十嵐も小泉典馬のことがあるから携帯は禁止なんだそうですよ」

「…で、スカちゃんは五十嵐さんに電話するときはどうしてるわけ?こわーい母親がいるんでしょ?」

「まぁね、その辺は五十嵐のお手並み拝見と言うことで、まだ俺から五十嵐に電話はかけられない状態が続いてるよ」

 そんなことを言っている一也だが、何かあれば巳夜から寮に電話は来ることになっているのでそんなに心配することはなかった。

「次はまぁ、ウィンドウショッピングになるかと思いますが、土曜の午後から会う予定でいますよ。まだまだたくさん聞いて、お互いの信頼関係を築いていかないとですしね。…いくら光流先輩や忍先輩たちにからかわれようとくじけてる場合じゃないんです」

 一也は光流と忍を前に、ぐっと両のこぶしを胸元まで持ってきて、力強く握りその意思を見せてみせる。

「スカちゃん、最近はそれが口癖だね」

「…事実を言っているまで。…巳夜に弱いところを見せたくないからな」

「・・・巳夜?」

 光流と話し、一也はぐっと力を籠め、からかわれている場合ではないという。それを半分茶化すように、瞬が相乗りすると一也の本音が飛び出す。

「あ、いや。その、言葉のあやだよ」

「言葉のあやじゃないよ。もうバレバレなんだから、五十嵐さんのことを『巳夜』、スカちゃんのことは『一也』って呼びあってるのは。…あーあ、からかい甲斐のないったら」

 瞬はそう言って頬杖をつくと、笑みを浮かべ、横目で一也の姿を見た。見られた瞬間、一也は小さく縮こまった状態でいた。



 その週末、緑林寮のある地元の駅 で待ち合わせをしていた。一也はこの日、巳夜が珍しく、細身のジーンズをはいて、スニーカーを履き、上はちょっとフリルのついた、だが、ジーンズに合う服 装をしてきた。一也は制服か、カチューシャなどをつけて女の子を振る舞うような巳夜しか知らなかったので、意外な巳夜の服装にそして、肩にかかるくらいの 髪をポニーテールにしている巳夜の姿に一瞬目を奪われ、ポカンと口を開ける。

「おはよう、一也。…そんなにお・・・あたしの恰好、変か?」

「いや、似合いすぎてる。…巳夜は何を着ても似合うんじゃないかなー?って思うよ。ボーイッシュでもガーリーでも、…前回のようなロングスカートでもショートパンツでも。…巳夜、ルックスいいもん。…一緒についてる男が貧弱で悲しくなるよ」

 もちろんわざとではあったが、実際、特別なとりえのない(と本人は感じている)自分と比べて、巳夜のその姿に吸い込まれそうになる。すると、珍しく巳夜が「うれしそうな」笑顔を見せて、笑って見せる。

「大丈夫だよ、一也。…一也は別の女に目を付けられるような…例えば光流先輩みたいな人でなくていいんだ。あたしにとって、大切な、一緒にいて自然とふるまえる、そんなバックアップをしてくれる、隣にいてあたしだけを安心させてくれる存在でいいんだ」

 そう、巳夜は言葉を選びながら、一也に自分の気持ちを伝える。ぎこちなさ、恥ずかしさはあるようだったが、それでも、巳夜の全力の一也へのエールは、ほかのだれからもらうより(…一也の初恋の人、蓮川すみれよりも)元気をもらえるような、そんな言葉だった。

「あんまりそんなこと、気にしない でくれよ、あたしだってちょっとした挑戦でこんな格好してきたんだから。…普段はガーリーな格好っていうのか?そういう格好のほうが自分が自分でいられる 感じなんだから。たけど…一也と一緒に歩くとき、一也が『可愛い彼女』を連れて歩くのももちろんうれしいけど、『格好いい彼女』を連れて歩くのも悪くない かなって思ってさ」

 巳夜が少ししょげ気味の一也に言う。巳夜がこんなに饒舌に色々をしゃべるのは一也は初めてみる。しかも、自分の考えのもと、こうしたいと目的をもってその恰好をしていると言うのは、二回目のデートにしては、ずいぶんな進歩だった。

「ありがとう、巳夜。…でも、なにかあったのか?」

 巳夜のあまりの変わりように一也はその様子を聞き返す。すると、巳夜はぎこちない笑顔で右手を差し出す。

「学校で話を聞いたりしていたんだよ。…じつはこれ、借りものなんだよね。だから、自分なりに合うものを今日は見つけたくて。そんなことをちょっと前回考えてて、ショッピングに行きたいって言ったんだ」

  一也は納得すると、巳夜の差し 出す手を握る。巳夜はそんな一也をリードするようにして、自分目当てのショップに向かって小走りで進んでいく。一也は巳夜の引っ張られるままに、巳夜の後 ろについていたが、意外に行動的になった巳夜の姿を後ろから見て、まだ五回とも満たないデートの回数だというのに、巳夜も変われてきているんだなと実感し た。そして、自分はなにか変化したかな、と考えたりもした。

 一通り、巳夜が見たいというショップを回り、いくつか候補は上がったが、巳夜自身はどれも良くも悪くもどれにすべきかをなやみながら、休憩と言ってファミレスに入っていく。

「・・・どうした、一也?おれ・・・じゃない、あたしの顔に何かついてるか?」

 ふと、一也は巳夜の顔を見つめていた。

 初めて会ったときは光流には普通 に話はできたものの、『寮長』である一也と、寮母が常駐しているということを聞いて、少々委縮していたところがあった。そのあと、一也のひとめぼれと、巳 夜の真意を確認するまではあきらめないと誓い、あらゆる手を使い、巳夜にコンタクトしようとしていた時の自分と巳夜、お互いの表情を見て、何となく満足し ていたところだった。

「…巳夜はずいぶん、明るい表情ができるようになってきたし…女の子は恋をすると表情だったり、しぐさが変わってくると言うけど、巳夜も例外ではないんだなーって・・・」

 一也が包み隠さず言うと、巳夜は いつも通りにほほを赤らめて、顔を伏せてしまう。そういった行動も、最初は単に逃げるだけだったのだろうが、今は単純に恥ずかしいというだけで伏せている のかもしれないと一也は感じながら、向かいでこそこそと一也の様子をうかがう巳夜の頭を軽くポンポンと優しく叩いてみる。

 それを待っていたかのように少しだけ覗く巳夜の瞳は満足そうに、優しい表情を作っていた。

「あ、そうだ。前に電話番号は教え たよな、聞くのは嫌だと言っていたお母さんと無理やり話しなんかをしていたんだけど、一也のほうから電話をかけてきても、あたしに取り次いでくれる約束が できた。だから、もう一也から連絡してくれても大丈夫だから。…とはいえ、お・・・あたしのほうが一也に相談とかすることが多いんだろうけど」

 控えめながら、巳夜の母が、一也 に対して軟化の様子を持ってくれたことに、一也はすこし落ち着いた気がした。このまま連絡が取れずじまいだったら、結局一也と巳夜のしていることは男の子 と女の子とがするデートごっこにすぎなくなってしまうからだ。だが、確実に巳夜は明るくなってきているし、以前みたいな逃げる行動はほとんど影を潜め、積 極性が出てきた。今日にしたってそうだ。ショップの選択から、来てみたいという服装まで、巳夜自身が自分で感じたことについて一也に意見を求めてきたくら いだった。

「そうか・・・。巳夜は一日のことはお母さんに話するの?俺は光流先輩が迫ってくるから話さざるを得ないんだけど」

「光流先輩はこういう色恋沙汰が好 きなのに、一人に絞れないからなぁ。中学のころからそうだったんだよね。…で、お母さんには聞こうが聞くまいが、一応話はしている。…だけど、何となく、 お・・・あたしの態度が、典馬と一緒だったころとは違ってきていることに気づいているみたいで…自分じゃあまりよくわからないんだけど…一也と一緒にいる と、あたしのいい部分がでてくるみたいだねって言ってくれたこともあるから…一也に興味がないことはないみたい」

 それまで意外とビクビクとしなが ら、何とか典馬の傘の中で生活していた巳夜にとって、その「傘」の部分もなくなり、一也は比較的自由に色々なことに挑戦させてくれ、無理そうだったら音を 上げても、仮にもう少しの頑張りであれば、一也は手助けをしてくれる。巳夜にとってそれは一番驚かされたことだった。典馬の場合は巳夜がダメだと音を上げ たら「それ以上頑張る必要はない」と辞めさせていることが多かった。が、一也は止めることをあまりさせてくれない。その代わりにやりたいと申し出たこと、 やってみたいと希望したことはよほど無理ではない限り、させてくれるスタンスをとっていることが多かった。このさが巳夜にとっては新鮮で、『ちゃんとした 人間になりたい』と言う希望に近づいているかはわからないが、それでも、同級生のボーイフレンドのいる友人たちにいると、それまでのかくまわれていた巳夜 の姿のほうが意外だったと、口をそろえて言うことが多いことを考えると、一也はまず、巳夜に色々なことを包み隠さずに自由に触れることをさせている、と言 うようにもとらえることができた。…巳夜はいつしかそんなことに気が付き、あれもこれもやってみたいと一也に申告するようになっていた。巳夜の知る範囲 が、今までの典馬の一件で狭くなっていることを考えると、それがあって当然と言うような態度の一也だったが、それでもめったなことでそれを止めようとする ことはなく、積極的にしてみたらいいと背中を軽く押してくれるところがあると感じ取れていた。

 今日の服のコーディネイトも「た だ女の子らしくしなくったって、巳夜はルックスがよさそうだから、あえてボーイッシュに服を変えても良いんじゃないか」と言う一也の進言を実行してのこと だった。ただ、単純に「ボーイッシュ」と言われて、仮に一也に聞いてもあまり一也はその姿をきちんと教えてくれることはない。一也は巳夜に対して、一から 十まで手取り足取り指導をするようなタイプではない。それは初めのころの巳夜にしてみると、ずいぶんとほったらかしているように感じていた。典馬はそうい うことは「こうあるべき」と断言する部分があり、…一也と典馬は全く正反対の性質を持っていた。

 だが、なぜか、自分でそれを調べ ろと言われているのに、巳夜はそれが心地よく感じる時が多くあった。なぜなら、自分がこう思ったときに、それを止める相手がいなかったからだ。一也は巳夜 の希望を汲み、一緒になってその形を模索してくれる。その時の一也とのやり取りが、なにより『楽しい』と巳夜が感じられるようになっていた。そういう話を 同級生に話したりすると、「五十嵐さんは最近、よく笑うようになった」「笑顔が増えて、優しさが増した」と言ったようなことをよく言われるようになった。 その辺りを一也に聞くと、「それがまず一歩目の『普通』なんじゃないかな?笑顔は作るもんじゃない、自然と出てくるものだから」と言ってくれて、巳夜は今 まで仮面をかぶっていたかのような状態だったと気づかされた。

 「…今日はどこのお店がいいかな?おれ・・・じゃない、あたしはこういうボーイッシュも嫌いじゃないけど、普段できないかわいい服なんかが欲しいところがあるんだ。…一也はフリルのついたワンピースとかを切る女の子とかに抵抗あったりする?」

 巳夜が今日のコーディネイトを褒められて、気分がよくなったのか、少し饒舌に一也に質問する。「良い兆候」と一也は感じ取りながら、実際に巳夜がそんな恰好をするとなったときの姿を想像してみる。

「…ねぇ巳夜、巳夜の言う「ちゃんとした人間」って、どんなイメージ?言葉遣い?服装?」

「…そういうの全部ひっくるめて、女の子と女性の中間あたり。だって、あたしたち来年は高三になるんだし、ちょっと大人っぽい恰好もしてみたいとおもうし、だけど、今まで周りを邪見にしていた分、かわいい恰好と言うののもできなかったから、両方してみたいんだ」

「なるほどね。そういう意味で、言 葉遣いは問題ないと思うよ。服装は少しずつ、巳夜が来てみたい服を探すのがいいと思う。俺も巳夜の姿を見て、自分の感想は言わせてもらうからさ。そういう 意味では巳夜が期待里思う服を着ればいいんだと思うよ…ちなみに、俺はフリルなんかがついた服や、大げさにゴスロリの服を着た巳夜でも抵抗はないけどね」

 一也が質問しながら、巳夜の質問にも答えると、『ゴスロリ』の言葉に少し驚きを隠せない表情をしてみせる。…巳夜にしてみれば、まさかゴスロリでも一也が大丈夫だと いうとは思わなかったし、自分もゴスロリには興味はあったが、それができるとは思いもしなかったからだ。

「一也はその、ゴスロリってどんなのかわかっていってるんだよな?」

「ああ、わかってるよ。巳夜がどんな系統のゴスロリを選択するかまではわからないけどね」

 巳夜やにとってこう言う一也の言動は頼もしくも、ちょっと意外な部分を感じるようになっていた。…意外と女の子の複層に詳しいからだ。だが、一也が過去に付き合ったことはないというし、巳夜が初めての『彼女』だという。

「なぁ、一也。なんでそんなに女の子の服装とかしぐさについて詳しいんだ?」

「…女性の恰好については、寮の部 屋に女性誌が置いてあるからね。…髪の長い同室の如月瞬が興味本位で買ってきたりするんだよ。…だから、はやりすたりなんかは、そんな女性誌から情報を入 手しているから。…男性誌については光流先輩たちのところに行けば、大体おいてあるし・・・別に、そんなに流行がどうとかで、その恰好をする必要はないん だよ」

 一也はそう言いながら、頼んでいたアイスコーヒーを一口含む。

「それってどういうことだ?」

「ブームは自分ができる範囲で作るだけでいいんだよ。だから、今、自分がしているかっう工がブームだと思えば、それでいいんだよ。…まぁ、廃りのほうは確実に抑えないと『遅れてる』感じになっちゃうからね」

 こういう一也の、悪く言えば自分本位な部分は巳夜にはずいぶん驚かされる。それが確かに廃りになるようなことはしないが、ある程度、まだ「流行り」であれば、積極的ではなくても取り入れてくることはしているからだ。

「巳夜には周りを囲む『友達』たちがいるんだから、どんな服を着たたらいいか、相談してみれば、はやりなんかは敏感に反のしている子たちから、すぐに情報を得ることはできるバズだよ?」

 一也がさらっと言って見せて、なるほどと巳夜は納得した。一也の意見、友達の入れん総合して自分ができる服装をすればそれで十分なんだむと言うことを改めていらされることになった。



 この日はそんな話をして、結局巳夜は今まで来ていたような服をチョイスして買ってきたが、一也は「急に変わる必要はないんじゃない?」と言ってくれたので、今日買った服で十分な気がしていた。

巳夜はその日、自宅に帰り、母に一也との話をする。母はあまり良い感じではない反 応を示していたが、巳夜にとってはそんなことは関係なかった。そして、仮申請として、付き合いをしているという一也との交際を正式に学校に提出する段取り を始める。巳夜にとっての一也はブレーキではなく、かといって、止まることのないアクセルでもなく、適度に背中を押して、先に進ませてくれる存在だった。 「俺がついてる」の一也の一言がここまで自分を徐々に変えていてくれることに、巳夜は感謝していた。