なにが「聖」で、なにが「悪」か
  第二話/その他とは、異なるモノ

ヒトとかけ離れた者がそこにはいた。
妖怪、怪物。なんと呼ばれるかは、「ソレ」を見た人の印象だろう。
そして、その前に立つ、一人の少女が居る。

その怪物は、どうやら人々の夢、希望、そして精気を奪い、成長しているようだ。
それに気付いた、怪物退治を生業とする少女がいま、食いとめんと立ちはだかる。
そして、いともあっさりと、少女はその怪物を退治してしまった。
だが、奪われた夢や希望、精気は戻ることはなかった。
虚しさからか、ため息をつく少女。

 
そこに、一部始終を見ていた一人の少年が現れる。

「君って凄いんだね!あんな化け物を簡単に退治できるなんて。そうやって人間を守ってるの?」

少年の問いに、少女は呆れた顔を返した。そして、 その問いには答えずにその場を去ろうとした。

「待って!俺も一緒にやらせてくれよ!」

その少年は、少女の背中に向かいそう叫んだ。

「…一緒に?・・・何を?」

足を止め、少し不機嫌そうな表情で、少年を見返し、そう呟く少女。

「化け物退治さ」

「…ソレをして、どうしようと言うの?」

「俺も『特別』な存在になりたいんだ。人間なんかじゃなくてさ。いや、人間でも良いんだけど、その場合の『特別』って、才能とか必要だろ?
だけど、化け物退治だったら、腕っぷしが強ければ出来るだろう?ケンカは苦手だけど、化け物には興味があるし、それを退治するのは面白そうだからな」

少年はそう言って見せた。
だが、その言葉に少女は更に呆れた顔になった。

「『特別』…ね。」

一言つぶやくと、少女は無言で少年に近づく。
しかし、そのときの少女の気迫は、それまで向かい合っていた時に感じた物より恐怖を覚えるものだった。

「私は別に、特別な事をしているわけじゃないよ。ただ、コレをすることでしか、生きることが出来ないだけ」

「だ・・・だけど、俺たちとは違う。『特別』なのは事実だろう?」

少女の気迫に気圧されつつも、少年は人間とは違う、秀でたもの、『特別』なものになりたいと願いつづけていた。

「…そう。でも、私と同じにはなれないよ、私は人間ではないから」

少女が言う。ため息をつきながら。

少年が気付いた時、「地上」に居たはずの自分の身体が、宙に浮いていることに気付いた。それは少女の能力なのだろうか?

「す・・・すげぇや、宙に浮いていられるなんて」

「…人間じゃないから、ね」

少年は、少女の能力によって宙に浮いている。
少女は一言呟いた後、口元に気付かないほどのわずかな笑みを浮かべた。

「え?!」

次の瞬間。
宙に浮いていたはずの少年は、突如として落下を始める。

「な、なんでだよ?!なんで落ちるんだ?!」

「…だって・・・。あなたは、人間。でしょう?」

少女の笑みはいまや、顔全体に広がっている。
少年は成すすべも無く、真逆さまに落ちていき・・・。


「…人間…じゃ、なくなっちゃったね。でも、『特別』になれたから満足かな。…とは言え、もう「この世」には居られなくなっちゃったわけだけど。
何も、誰も、特別なんてことはありえない。それぞれに与えられたものを捻じ曲げようとすれば、いつかきっと道を外す。
人間に限らず、知能ある生物は・・・いや、植物だって、生を受けたからには、ソレをまっとうすべき命題があるはず。
・・・ただ、それがなかなか、人間には見つからないってだけなんだけどね。手っ取り早く『特別』になろうなんて、甘いよ。
どんなに苦労してでも、どんなに辛い茨の道でも、努力無しでは『特別』にはなれないし、特別なんてものは…所詮自己満足。
だけど、成果が現れてこその『特別』なんだから。
途中で投げ出しちゃダメ。
諦めちゃダメ。
他にすがっちゃダメ。
きちんと自分の道は自分で決めなきゃ。

…私は自分に課せられた使命が怪物退治、そして、人間ではない別の「者」として生きることだったから、それをしているまで。あなたみたいに、本来の道を捨 てようとするから、そんな結果になるんだよ。

気付かなくても、地道に頑張れば、きっと何かが見えたはずなのにね。例えもがいてて、今、自分が何者か、何をすべきか分からなくても、生きることを投げ出 さなければ、きっと何かが見つかったはずなのに。
残念だったね。…私と関わったばっかりに」


その少女の背中には、いつのまにか黒い羽が。
そして、頭には白く輝くリングがみえる。

「特別になりたければ、努力しなきゃ。でも、平凡な道であったって、悪い事ばかりじゃない。だから、諦めないで先に進めるんじゃない。
もう少し、頑張れればよかったのにね。早まったりしたら、ダメだよ。そして、頑張って日々を過ごさなきゃ…ね。」


そう呟きながら、天を仰ぐ。


「なんて言っても、今のあなたには聞こえないし、『頑張って生きる』なんてムリか。なんせ、『特別』になっちゃったんだもんね。」


嫌味の無い、無邪気な笑顔を見せ、その堕天使はその場から姿を消した。


第二話 -End-

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