Angel's Whispers 〜 天使のささやき〜 Primary Works Vol.3


 みなさんこんにちは、私 は…そうですね、胡桃(くるみ)と呼んでください。今回から、この「Angel's Whispers 〜天使のささやき〜」をナビゲートすることになりました。と言っても、私が語ると言うわけではないんですけどね。

 さて、Vol.1Vol.2はどちらも学生さんのお話でした。今回は主人公が成人になった時 のお話し。

 それでは、エンジェルズ・ ウィスパーズVol.3お楽しみください。



 ある街での成人式。

 俺は高校卒業とともに就職 することを選択した。もともと、工業高校の出で担任からも「専門学校は工業高校と同程度の事しか習わない」と言われていたし、かと言って大学に行けるほどの頭 は持っていなかった。

 そのため、卒業後は実家か ら離れて、会社の寮での生活になった。

 今日は俺のような人間か ら、大学を主席入学した人間から、この街の基本的に全ての成人が集まる日になった。俺も懐かしい中学・高校の友人たちと会場になる市民会館の駐車場で話をして いた。周りの連中はみんな、大学に進んだそうで、俺だけが現役のサラリーマンと言うことだった。

 それぞれに車を所有し、駐 車場は車でいっぱいになっていた。


 そんな駐車場で話をしてい たが、市民会館の駐車場入り口辺りで、どこかで見たことがあるすがたを見つける。

「どうした?なにかあったの か?」

 友人の一人が、俺が動き出 したのを見て訊いてくる。だが、その姿がすぐに消えてしまう気がして、慌ててその姿を見た方に走って行った。

 そこにはまだ中学生くらい の少女が居た。

「きっと来てくれると思った んだ。だから姿を現したんだけどね」

 何か含みを持った言い方で その少女は言った。

「きみは・・・?」

 喉元までその少女の名前は 出て来ていた。だが、それ以上に名前が思い出すことができない。確実にどこかで見たことのある姿。俺の記憶の中にも彼女のすがたははっきりと映っていた。

「ねぇ、車持ってるんで しょ?ちょっとドライブしようよ」

 その少女はそう言って、俺 の車を指さす。新しい車ではない。中古の自分が形だけを気に入って買った車。かのじょはそれに乗せてほしいと言ってきた。俺は少し戸惑いながら、車まで来る。

「何かあったのか?突然走り だしたりして」

 …どうも、彼女の姿は俺以 外には見えていない様子だった。「誰かが居たんだが」同じ拍子で彼女の居た方を見た同級生に言ったが、「誰も居ないじゃねぇか」と言ってそちらを見るのをすぐ にやめてしまう。

 そろそろ成人式が始まる時 間だったが、俺は彼女の方に車をまわす。他紙からそこには彼女の姿がある。…俺以外の誰にも見えない彼女が。


 彼女は俺が車を回して来る と、何も言わずに助手席に座る。

「きみは・・・」

「わたしのことはどうでもい いと思うよ、この際。ねぇ、行きたいところがあるんだ」

 そう言って彼女は俺にその 素性を明かすことなく、助手席で行き先の指示を出す。


 小学校、中学校、学校近く の河原。

 言われるままに、俺は彼女 の言う通りの道に車を走らせた。

 徐々に彼女が何者なのかが わかってきた気がする。

 小学校については、俺の 行っていた学区の隣の学校で、中学校で一緒の学校に通うようになる。なので、中学校については俺も知っている中学校だった。ただ、この中学校については両親の 転勤によって、一年生の一学期しかいることは出来なかったが。唯一記憶が重なったのはその中学校だけで、あとは本当に彼女の想い出の場所だったようだ。


 市民会館に戻る道順を辿っ て帰る。

 その途中で彼女は俺をじっ と見つめてきた。確か見覚えはある。だが、中学の時に会ったことがあったのかまでは思い出せない。

「・・・ごめんね、東京に出 ているから、こっちの友達とも話したかったでしょ?」

 不意に彼女が言う。だが俺 はそんなことより彼女のことが気にはなっていたが、それをつきつめたところでたぶん、意味は無いのだろうと、本能が察していた。

「いや、たぶん俺がこっちに 返ってきたのは君に会うためだったのかも知れない」

 俺がそう答えると、小さく 彼女は「ありがと」と礼を言う。

「うん。なんか『いけそう』 な気がしてきたよ」

「もう、会えないん だ・・・。残念だな」

「仕方ないよ。だけど、わた しのことを思い出したら、きっと思い出すかも知れないけど…あまり悩まないでね」

 彼女はそう言うと、すぅっ と姿を消す。

 彼女が言った『いけそう』 の意味がそう言う事だったというのをようやく悟った俺は、慌てて会場に向かった。

 くるまを止めて、皆が集 まっている場所に戻る。

「よぉ、久しぶりだなぁ、元 気だったか?」

 それまで話していた友人が そう言ってきた。一瞬混乱したが、時計をみると俺がここに着いた時の時間を指し示していた。

 彼女解いた時間はリセット されているようだった。

 そして、彼女の話を何とな く切り出した。

「ああ、あの娘は中学卒業し て、高校に入る準備の途中で突然自殺しちまったらしいぞ」

 その話を聞き愕然とする。

 その時になって、うっすら と影っていた記憶の一部が見えてきた。彼女と小学校は違ったが、中学で同じ中学になり、俺に「好きだ」と言ってきた娘だったのを思い出す。

 自殺の原因はいじめとのこ とだったが、仮に俺がそのとき、彼女のそばでちからになれていたらとおもうと、どうにも苦しくなった。


 ただ一つ、彼女は『逝く』 時、満足して、満面の笑みを俺に見せてくれながら、昇天していった。

(色々あったんだろうけど、 それでも満足できたんだ。…この場所が分かったから、彼女は俺に藍に来たのか…)

 俺はそんな事を思って、天 を仰ぐ。


 彼女とは本当に短い時間し か共有出来ていなかったが、それでも彼女は満足してくれたのだと思うと、今日、この成人式に出ることを辞めないでよかったと感じた。


…彼女が満足だったら、それ でいいと思う。

俺は同級生の居る集まりの方 に歩き出した。彼女の分まで、俺は俺として、良い人生を歩みたい、そんな年寄り臭いことを思いながら。



・・・彼女は『逝って』し まったんですね。だけど、最後に告白した人に会えてよかったのかも知れませんね。それと、例え自殺だとしても、彼女自身はあまり後悔のようなものはなかった様 子。それは良かったことの一つですね。

こんな不思議な話も現実に あったりするかも知れないですね。

今回のお話はこれでおしまい です。『彼』と『彼女』がそれぞれ幸せであることを祈りつつ。


次回、Angel's Whispers Vol.4でまた、お会いしましょう。胡桃でした。


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